エリーザベト・フェルスター＝ニーチェ

テレーゼ・エリーザベト・アレクサンドラ・フェルスター＝ニーチェ：ニーチェの妹とナチズムの影

テレーゼ・エリーザベト・アレクサンドラ・フェルスター＝ニーチェ（1846年7月10日-1935年11月8日）は、ドイツを代表する哲学者フリードリヒ・ニーチェの妹であり、自身も熱心なドイツ民族主義者、そして反ユダヤ主義者として知られています。ニーチェの死後、彼の遺産の管理と解釈に深く関与し、その過程でニーチェの思想を歪め、ナチズムのイデオロギーに利用されることにも繋がりました。本稿では、彼女の生涯と、ニーチェの思想、そして20世紀ドイツの歴史との複雑な関わりについて探ります。

幼少期と兄との関係

エリーザベトは、ライプツィヒ近郊の裕福なルター派牧師の家庭に生まれました。幼い頃に父と弟を亡くすという辛い経験をしており、兄フリードリヒとは幼少期から非常に親密な関係を築きました。しかし、エリーザベトが熱狂的な反ユダヤ主義者であるベルンハルト・フェルスターと結婚した1885年以降、二人の関係は次第に冷え込んでいきます。

パラグアイ移住計画と挫折

フェルスターは、「純粋な」アーリア人の理想郷をパラグアイに建設するという壮大な計画を立て、エリーザベトと共にドイツ人家族を率いて移住を試みました。しかし、過酷な環境と疫病の蔓延により、この計画は失敗に終わり、フェルスターは自殺、エリーザベトもドイツへ帰国することとなります。この挫折は、エリーザベトの人生に大きな影を落としました。

ニーチェの死後と遺産の管理

1889年、フリードリヒ・ニーチェは精神疾患により発狂し、1900年に死去しました。その頃、ニーチェの著作はヨーロッパ中で注目を集め始めており、エリーザベトは兄の遺産の管理、特に著作の出版に重要な役割を果たしました。しかし、彼女はその過程でニーチェの思想を意図的に歪曲する行為に出ます。特に、『権力への意志』というタイトルで遺稿を編集・出版したことは、ニーチェの思想に対する大きな誤解を生み出す一因となりました。

ナチズムとの関わり

1930年代に入ると、エリーザベトはナチ党を支持するようになり、1933年にナチスが政権を掌握すると、ニーチェ文庫は政府からの資金援助を受けるようになりました。彼女はニーチェの名声をナチズムの宣伝に利用し、ヒトラーからも厚遇を受けました。1935年の彼女の葬儀には、ヒトラーをはじめとするナチ党高官が多数参列しました。

エリーザベトの遺産と歴史的評価

エリーザベト・フェルスター＝ニーチェは、ニーチェの妹として、そして反ユダヤ主義者、ナチス支持者として複雑な歴史的評価を受けています。彼女は兄の思想を歪め、ナチズムのイデオロギーに利用した責任を負っています。彼女の行動は、個人の信条が歴史に与える影響の大きさを改めて示すものです。

参考文献

Diethe, Carol, Nietzsche's Sister and the Will to Power, Urbana: University of Illinois Press, 2003.
Macintyre, Ben, Forgotten Fatherland: The Search for Elisabeth Nietzsche, New York: Farrar Straus Giroux, 1992.
ベン・マッキンタイアー　『エリーザベト・ニーチェ──ニーチェをナチに売り渡した女』　藤川芳朗訳、白水社、1994年、復刊2011年5月。
『ニーチェの生涯　上．若きニーチェ』、『下．孤独なるニーチェ』、浅井真男監訳、河出書房新社 1983年

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