エルネスト・オシュデ

エルネスト・オシュデ：印象派を支えた実業家の生涯

エルネスト・オシュデ (1837-1891) は、19世紀フランスを代表する実業家であり、熱心な美術コレクターとして知られています。パリで百貨店を経営し、成功を収めていた彼は、印象派の絵画に深い造詣を持ち、クロード・モネ、エドガー・ドガ、カミーユ・ピサロ、アルフレッド・シスレーといった巨匠たちの作品を積極的に収集しました。彼の類まれな審美眼と情熱は、後の印象派絵画史に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

オシュデは、ベルギー出身の妻アリス（1844-1911）とともに、パリ郊外のロッタンブール城を所有し、そこで盛大な宴や狩猟会を開くなど、華やかな社交生活を送っていました。しかし、1877年、経営難により事業は破綻。惜しくも彼の収集した貴重な印象派の絵画コレクションは、翌年オークションにかけられ散逸してしまいます。

この不幸な出来事の後、オシュデは、彼と公私共に深い繋がりを持っていたクロード・モネと共同生活を始めます。家族ぐるみの付き合いは、やがてアリスをめぐる複雑な関係へと発展し、オシュデとモネの間には微妙な緊張感が漂うようになります。オシュデは1891年に亡くなり、その後、妻アリスはモネと再婚するという、数奇な運命をたどります。

オシュデの家族についても触れておきましょう。彼の5人の娘たちは、いずれも才能豊かな人物でした。長女マルトは、アメリカ人画家のセオドア・アール・バトラーと結婚。次女ブランシュは、モネの息子ジャンと結婚し、両家の結びつきをさらに強めました。三女スザンヌもまた、セオドア・アール・バトラーと結婚しています。残る二人の娘、ジェルメーヌとジャン＝ピエールもそれぞれ結婚し、現代まで続く家系を築きました。ジェルメーヌの孫は著名な美術史家フィリップ・ピグエであり、ジャン＝ピエールの孫娘には、歌手やテレビ司会者として活躍するドロテ（本名フレデリク・オシェデ）がいます。

エルネスト・オシュデは、実業家としての成功と破産、美術コレクターとしての優れた審美眼、そしてモネとの複雑な人間関係など、ドラマチックな生涯を送りました。彼の存在は、単なる美術コレクター以上の意味を持ち、19世紀フランスの美術界、そして社会経済史を考える上で重要な位置を占めていると言えるでしょう。彼と家族の物語は、時代と芸術、そして人間の複雑な感情が絡み合った、忘れがたい歴史の一端を私たちに伝えています。彼の没後、家族間の繋がりは更に深まり、モネの芸術に大きな影響を与えたことは言うまでもありません。

オシュデの生涯は、成功と挫折、そして家族愛と複雑な人間関係といった、人間のドラマを凝縮した物語と言えるでしょう。彼の物語は、単なる歴史的事実としてだけでなく、人生の様々な側面を深く考えさせる、普遍的なテーマを含んでいるのです。

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