アルフレッド・シスレー

アルフレッド・シスレー：印象派の巨匠、光と水の詩人

アルフレッド・シスレー(1839-1899)は、フランス生まれのイギリス人画家です。裕福なイギリス人両親のもと、パリで生まれた彼は、絹貿易商を営む父ウィリアム・シスレーの4人兄弟の末っ子でした。18歳でロンドンへ渡り、叔父のもとで商業を学びますが、美術への強い関心を抱き、ターナーやコンスタブルといった巨匠の作品に感銘を受けます。

ロンドンでの経験を経てパリに戻ったシスレーは、画家フレデリック・バジールの紹介でグレールのアトリエに入学。そこでクロード・モネ、ピエール・オーギュスト・ルノワールらと出会い、生涯にわたる友情を育みます。彼らはアトリエでの制作よりも、戸外で自然光の下、風景画を描くことを好み、その鮮やかで大胆な色彩は、当時の美術界の常識を覆すものでした。そのため、彼らの作品はサロン（公募展）ではなかなか認められず、経済的な苦労を強いられることになります。

シスレーは、父からの援助を受けながら、他の印象派の画家たちよりも恵まれた環境にありました。特にルノワールとは親しく、ルノワールはシスレーの父や恋人、そしてシスレー自身の肖像画を描いています。1866年にはブレトン人のウジェニー・レクーゼクと交際を始め、息子ピエールと娘ジャンヌをもうけます。パリのアヴニュー・ド・クリシー付近に住み、カフェ・ゲルボワにも通い、当時のパリの美術界の中心地に身を置いていました。

1868年、シスレーはサロンに入選しますが、大きな成功は収められません。1870年の普仏戦争では、ブージヴァルにあった家と財産を失い、翌年には父の事業が破綻。経済的な困窮は彼の生涯を付きまとい、作品を売って生活費を賄うことを余儀なくされます。1871年にはパリ・コミューンを避けてルーヴシエンヌ近郊のヴォワザンに移り住み、その後アルジャントゥイユ、ブージヴァル、ポール＝マルリーへと移り住みながら制作を続けます。

経済的な困難にも関わらず、シスレーは後援者の支援を受け、イギリスへの旅行を何度か行っています。1874年の第一回印象派展の後には、熱心なコレクターであり、著名なオペラ歌手でもあったジャン＝バティスト・フォールの招きでイギリスを訪れ、テムズ川上流のモレジーで多くの作品を描いています。1875年にはモネ、ルノワール、ベルト・モリゾらと共に作品を展示即売会を開催するなど、積極的に活動していました。

1880年代には、セーヌ川の支流であるロワン川沿いを中心に活動の拠点を移し、1881年には再びイギリスを訪れています。1889年にはモレ＝シュル＝ロワンに移住し、1893年から14点にも及ぶモレ＝シュル＝ロワンのノートルダム教会の連作を描いています。1897年にはウジェニーと共にイギリスへ再び渡り、カーディフで婚姻届を提出、カーディフ近郊やガウワー半島で多くの作品を残しました。しかし、フランス市民権の申請は病気のために却下され、1899年、モレ＝シュル＝ロワンで喉頭癌のため死去します。

シスレーは、900点近い油彩作品を残していますが、そのほとんどがパリ近郊の穏やかな風景画です。人物画や静物画はごくわずかで、彼は生涯にわたって印象派の技法を貫き通しました。その点において、シスレーはまさに「典型的な印象派の画家」と言えるでしょう。アンリ・マティスがカミーユ・ピサロに「典型的な印象派の画家は誰か」と尋ねた際、「シスレーだ」と答えたという逸話も残っています。

代表作には、『ルヴシエンヌの雪』（オルセー美術館）、『ポール・マルリーの洪水』（フィッツウィリアム美術館）、『モレのロワンの運河』（オルセー美術館）、『春の太陽、ロワン川』（個人蔵）、『モレの教会堂』（プティ・パレ美術館）などがあります。彼の作品は、静謐で美しい風景を通して、自然の光と水の織りなすハーモニーを繊細に表現しています。彼の生涯と作品は、印象派の歴史において重要な位置を占め、今も世界中の美術愛好家を魅了し続けています。

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