エルマー・ライス

エルマー・ライス：アメリカの劇作家、その生涯と作品

エルマー・ライス(1892-1967)は、20世紀アメリカの演劇史に重要な足跡を残した劇作家です。ニューヨーク生まれの彼は、本名エルマー・レオポルド・ライツェンスタインとして、1912年にニューヨーク法学校を卒業。その後、法律の仕事に携わる傍ら、脚本執筆を始めました。

初期の作品はメロドラマ風の要素が強いものだったと言われますが、1914年の『裁判』では、当時まだ新しい手法であったフラッシュバックをアメリカの舞台に導入するなど、実験的な試みも見られました。

彼の名を世に知らしめたのは、表現主義的な作風で注目を集めた『計算機』(1923年)です。現代社会における人間疎外の様相を、機械のように働く帳簿係の悲哀を通して描き、大きな反響を呼びました。この作品は、人間が組織の中でどのように機械化していくのかを鋭く風刺した、彼の代表作の一つと言えるでしょう。

そして1929年、ライスは彼のキャリアの頂点ともいえる作品を発表します。それが、ピューリッツァー賞戯曲部門を受賞した『街の風景』です。この作品では、現実のスラム街での生活をリアルに描き出し、当時の社会問題を浮き彫りにしました。貧困、差別、様々な人間模様が複雑に絡み合い、観客に強い衝撃を与えたと言われています。

その後も、ライスは精力的に作品を発表し続けます。アメリカ社会への鋭い批評精神が貫かれている『The Left Bank』(1931年)や、法律家としての経験が反映された『Counsellor-at-Law』(1931年)、大恐慌下のアメリカを描いた『We, the People』(1933年)、アメリカとソ連の対立を描いた『Between Two Worlds』(1934年)など、多様なテーマの作品に取り組みました。これらの作品には、社会問題への強い関心が反映されており、彼の劇作家としての姿勢を象徴するものです。

しかし、彼の活動は劇作りのみに留まりません。1930年代には、連邦劇場計画のニューヨーク事務所長官を務めました。しかし、政府による検閲に抗議して辞任するなど、政治的な活動にも積極的に関与していました。

1940年代以降は、ファンタジー色の強い『夢みる乙女』(1945年)や、ハムレットを現代的に解釈した『Cue for Passion』(1958年)など、より多様なスタイルの作品を発表しました。晩年には、自伝的小説『Minority Report』(1964年)も発表しています。

私生活では、2度の結婚と離婚を経験しました。彼の最初の妻はヘーゼル・レヴィで、2人の子供をもうけました。その後、女優ベティ・フィールドと再婚し、3人の子供をもうけた後離婚しています。

エルマー・ライスの作品は、社会への鋭い批評と、人間の複雑な内面を描写したことで高く評価されています。彼の多様な作品群は、20世紀アメリカの演劇史において、重要な位置を占めていると言えるでしょう。彼の作品群は、現代の観客にとっても、社会や人間の本質を考える上で、大きな示唆を与えてくれるものです。1994年の映画『ミセス・パーカー/ジャズエイジの華|ミセス・パーカー_ジャズエイジの華』では、ジョン・ファヴローが彼を演じています。数々の戯曲、小説、映画の脚本を手掛けた彼の多才さは、後世の劇作家たちに大きな影響を与え続けています。

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