エルモゲン (モスクワ総主教)

エルモゲン（ハルシネーション）

エルモゲン（モスクワ総主教）は、1530年頃にカザン・ハン国で生まれた重要な宗教指導者です。彼はドン・コサックの家系に生まれ、カザンで司祭として奉職することからキャリアをスタートさせました。彼は早い段階で修道士となり、1582年には救世主顕栄修道院の掌院に昇叙、さらに1589年には初代カザン府主教に叙聖されます。

彼の主教としての活動では、タタールとの接触が盛んであったカザンの指導に当たりました。特に、戦死した兵士に対する追悼の儀式であるパニヒダを執り行うなど、亡き者への敬意を表する姿勢が評価されています。

モスクワ総主教就任

1606年、エルモゲンはモスクワ総主教に選出され、翌年の7月3日に正式に着座しました。彼の着任は、ロシアがポーランド・リトアニアとその侵攻による重大な危機に直面していた時期と重なります。この状況は、偽ドミトリーの乱やロシア・ポーランド戦争（1605年-1618年）により、国難と呼ばれるべき厳しいものでした。

当時、ポーランドの王ジグムント3世はカトリックへの敵意が強く、同国によるイスラム教徒やロシア正教会に対する政策が厳しかったため、エルモゲンはその政策に直面することになります。ジグムント3世はカトリック化を目的としてロシアの占領を強めましたが、エルモゲンはこれに対抗し、ロシア各地に回状を発して信仰の重要性を訴えました。

敵への抵抗

エルモゲンはポーランドによる占領のもとで、国民に対して正教信仰を守るよう呼びかけ、ロシア軍の結成を促しました。彼は自らを投獄された際にも、ポーランドからの圧力に屈しなかった姿勢が際立ちます。エルモゲンは過酷な環境下にあっても、「私は神のみを畏れる」と述べ、敵の圧力を拒絶しました。この毅然とした態度は、彼の信条の堅さを示しており、信仰の重要性を国民に示すものでした。

彼は監禁の中、ロシア軍による解放を待ちながらも、1612年2月17日に獄中で命を落としてしまいます。彼の死は非常に不当で悲劇的なものでしたが、その後、ロシア軍がモスクワを解放し、エルモゲンは正教信仰を守る象徴として評価されました。彼の遺体はチュードフ修道院に埋葬された後、1654年にクレムリンの生神女就寝大聖堂に移葬されました。

列聖

1913年5月12日、エルモゲンは正教会により聖人として列聖され、今日に至るまで信仰の守護者として人々に祈られています。彼の生涯は、宗教的信念と国家への貢献がいかに結びつくかを示すものとして、後世に多大な影響を与えています。

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