エルンスト・オイレンブルク

エルンスト・オイレンブルク

エルンスト・オイレンブルク（Ernst Eulenburg）は、ドイツに起源を持つ著名な楽譜出版社です。特に黄色い表紙のポケットサイズの楽譜、通称「ミニチュアスコア」の分野で世界的に知られており、クラシック音楽の演奏家や研究者、愛好家にとって不可欠な存在となっています。現在は、同じくドイツの有力な出版社であるショット社（Schott Music）の一部門として、その伝統と高品質な出版活動を続けています。

創業と黎明期

この出版社は、エルンスト・オイレンブルク自身によって1874年にドイツのライプツィヒで設立されました。創業当初は、ピアノの練習曲集や、比較的軽妙な音楽、男声合唱曲といったジャンルの楽譜を中心に刊行していました。次第に事業の幅を広げ、今日の専門分野へと歩みを進めていくことになります。

ミニチュアスコア市場への参入

オイレンブルク社の名声を確立したミニチュアスコアの分野に本格的に乗り出したのは、創業から約20年が経過した後のことです。1891年、同社は既にミニチュアスコアの出版を手がけていたペイン社（Payne）の事業を引き継ぎ、クラシック音楽、特に室内楽曲のミニチュアスコアの出版を開始しました。さらに1908年には、英国のドナヨウスキー社（Donajowski）のカタログを入手することで、出版可能な楽曲のレパートリーを大幅に拡充しました。これにより、ベートーヴェンやモーツァルトといった古典から、より新しい時代の作品まで、幅広い作曲家の重要な作品をミニチュアスコアとして提供できるようになりました。

クルト・オイレンブルクの時代

1905年には、創業者エルンストの息子であるクルト・オイレンブルク（Kurt Eulenburg）が入社しました。彼は後に父の後を継ぎ、1968年に90歳で引退するまで、実に60年以上にわたり会社の経営と出版事業の中心を担いました。クルトのリーダーシップのもと、オイレンブルク社はさらなる発展を遂げます。彼はアルフレート・アインシュタインやフリードリヒ・ブルーメといった第一級の音楽学者たちと緊密に連携し、彼らにモーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」やピアノ協奏曲などの重要な作品の校訂（編集）を依頼するなど、学術的にも質の高い版の提供に努めました。同時に、ポール・グレーナーのような同時代の作曲家の作品や、ハリウッドで活躍した映画音楽の作曲家ミクロス・ローザの純音楽作品など、多岐にわたるジャンルの楽譜出版も積極的に行い、カタログの多様性を追求しました。

戦争の影響とロンドンへの移転

第二次世界大戦が勃発する直前の1939年、政治的な情勢悪化を受けて、オイレンブルク社はドイツを離れることを余儀なくされ、スイスのチューリッヒへと一時的に移転しました。その後、ロンドンに拠点を置いていた法人「グッドウィン・アンド・タブ（Goodwin & Tabb）」との交渉を経て、最終的に会社はロンドンへと活動拠点を移すことになりました。これは、戦時下の困難な状況において事業を継続するための重要な決断でした。

戦後の再建と現在

1945年に終戦を迎えると、クルト・オイレンブルク自身もロンドンへ移住し、再び本格的に楽譜出版事業の拡大に着手しました。戦災や移転の影響を乗り越え、失われたカタログの復旧や新たな作品の追加を行い、出版ラインナップを再構築しました。

1950年代末には、オイレンブルク社はショット社によって買収され、その一部門となりました。現在、「オイレンブルク版（Eulenburg Edition）」として知られる楽譜は、ショット社から刊行されています。オイレンブルク版は、その厳密な校訂と携帯性の良さから、現在でも世界中の音楽大学や図書館、演奏家や学生に広く利用されています。その総カタログ数は1200点を超え、クラシック音楽の重要なレパートリーを網羅しており、黄色い表紙は高品質なミニチュアスコアの代名詞として認識されています。

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