エルヴィス・イン・メンフィス

エルヴィス・プレスリー『エルヴィス・イン・メンフィス』

1969年、エルヴィス・プレスリーは、音楽史に残る名盤『エルヴィス・イン・メンフィス』（From Elvis in Memphis）を発表しました。このアルバムは、彼のキャリアにおける重要な転換点であり、1968年のカムバック・スペシャルと共に、エルヴィスが再び音楽シーンの中心に返り咲くきっかけとなりました。メンフィスでのレコーディングは、サンレコード時代以来14年ぶりという、エルヴィスにとって特別な意味を持つものでした。

レコーディングの背景

当初、レコーディングはナッシュビルで行われる予定でしたが、エルヴィスの友人マーティ・ラッカーの提案により、メンフィスにあるチップス・モーマンのアメリカン・スタジオが選ばれました。このスタジオは、ニール・ダイアモンドが使用する予定でしたが、彼はエルヴィスにスケジュールを譲る代わりに、自身の楽曲「アンド・ザ・グラス・ウォント・ペイ・ノー・マインド」をエルヴィスに歌ってほしいと要望しました。この曲は、結果的にアルバムに収録されることになります。

レコーディング・セッションの詳細

レコーディング・セッションは、1969年1月13日から23日の早朝にかけて第1回目が、2月17日から22日にかけて第2回目が行われました。また、1月から3月にかけてオーバーダビングが施されました。このセッションには、ギタリストのレジー・ヤングが参加しており、彼はかつてビル・ブラックコンボに所属していました。1月15日から19日の間、エルヴィスは風邪で体調を崩し、レコーディングを休まざるを得ませんでした。その間、「ドント・クライ・ダディ」「インヘリット・ザ・ウィンド」「想い出のバラ」のバックの演奏が先に録音され、後日エルヴィスのボーカルがダビングされました。

1月21日には、エルヴィスが敬愛するロイ・ハミルトンが同じスタジオでレコーディングを行っていることを知ると、翌日と翌々日の昼間にロイ・ハミルトンに会い、一緒に写真を撮りました。また、エルヴィスは自身が録音する予定だった「ANGERICA」という曲をロイ・ハミルトンにプレゼントしたというエピソードも残っています。

セッションでのユニークな出来事

1月21日のセッションでは、ビートルズの「ヘイ・ジュード」が取り上げられましたが、これはあくまでお遊び的なもので、完成には至りませんでした。この音源は、1972年のアルバム「エルヴィス・ナウ」に収録されるまでお蔵入りとなっていました。曲の終わりでエルヴィスが笑っているのが聴き取れるのが特徴的です。

「わが胸に抱きしめて」では、エルヴィス自らがピアノを演奏しています。これは、彼の多才さを示す一例と言えるでしょう。

その後の展開

1999年には、アップグレード版として6曲のボーナストラックが追加されました。さらに、2009年には、『バック・イン・メンフィス』とのカップリングでボーナストラックを加えたレガシー・エディションが発売されました。ディスク1のボーナストラックには、RCA傘下のCAMDENの廉価盤や「エルヴィス・ナウ」で発表されていた4曲が収録され、ディスク2にはオリジナルのモノラルシングルマスターが収録されています。

アルバムの評価

『ローリング・ストーン』誌が選んだ「歴代最高のアルバム500選」では、322位にランクインしており、その音楽的な価値は高く評価されています。

ジャケット

アルバムのジャケットには、1968年のカムバック・スペシャルの時の写真が使用されています。

参加ミュージシャン

エルヴィス・プレスリー - ボーカル, ギター, ピアノ
エド・コリス - ハーモニカ
ジョン・ヒューイ - ペダル・スティール・ギター
レジー・ヤング - ギター
ダン・ペン - ギター
ボビー・ウッド - ピアノ
ボビー・エモンズ - オルガン
トミー・コグビル - ベース
マイク・リーチ - ベース
ジーン・クリスマン - ドラム

オーバー・ダビング・セッション参加ミュージシャン

Wayne Jackson, Dick Steff, R.F. Taylor - トランペット
Ed Logan, Jack Hale, Gerald Richardson - トロンボーン
Tony Cason, Joe D'Gerolamo - フレンチホルン
Memphis Horns|Andrew Love, Jackie Thomas, Glen Spreen, J.P. Luper - サックス
* Joe Babcock, Dolores Edgin, Mary Greene, Charlie Hodge, Ginger Holladay, Mary HolladayMillie Kirkham, Ronnie Milsap, Sonja Montgomery, June Page, Susan Pilkington, Sandy PoseyDonna Thatcher, Hurschel Wiginton - バッキングボーカル

『エルヴィス・イン・メンフィス』は、エルヴィス・プレスリーの音楽キャリアにおける重要な一歩であり、彼の音楽的な才能が最大限に発揮された作品として、後世に語り継がれています。

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