エル・タヒン

エル・タヒン: メキシコの古代都市遺跡

エル・タヒン (El Tajín) は、メキシコのベラクルス州に位置する古代の考古遺跡であり、ユネスコの世界遺産にも登録されています。この遺跡は、古典期後期から後古典期前期にかけて（A.D.600-1200年）繁栄した祭祀センターであり、特にその独特の建築様式と豊かな文化的遺産で知られています。

地理と神話

エル・タヒンは、パパンテカ山塊の南西8km、パパントラの町近くに位置し、周囲は二つの渓谷によって囲まれています。「エル・タヒン」という名称は、12人の老人が雷雨の神として知られている地元のトトナク族の神話に由来しています。この地域には現在もトトナク族が住んでおり、彼らの歴史的な影響が色濃く残っていますが、最近の研究では、エル・タヒンは実はマヤ系のワステカ人によって建設された可能性も指摘されています。

研究の歴史

エル・タヒンは1785年にスペイン人技術者ディエゴ・ルイスによって初めて報告されました。その後、多くの学者や旅行者が訪れ、研究が進められました。特に、アレクサンダー・フォン・フンボルトや写真家テオベルト・マーラーによる調査が注目されています。石彫の図像に関する初の研究を行ったエレン・スピンデンの業績も重要です。1930年代には、アウグスティン・デ・ラ・ベガやホセ・ガルシア・パヨンによる建物や石彫の補強、復元作業が行われています。

時代ごとの発展

エル・タヒンは、先古典期後期から原古典期にかけて居住が始まり、その後全盛期には59ヘクタールに及ぶ都市へと発展しました。この時期の建築活動は古典期前期から活発化し、特に南半分の建設が行われました。時代を経るにつれて、王や神官たちのための居住区が整備され、壁龕のピラミッドなどが完成していきました。古典期後期には人口が2万人に達したとされ、エル・タヒンの整地工事や建物の埋め立てが行われました。

一方、その全盛期の後には、支配階層の建物が意図的に破壊されたり、移動されたりした跡も見つかっており、政治的な変遷を反映していると考えられています。遺跡の表面からは、後古典期の土器や石器も出土しており、かつての活動の痕跡が様々な形で残されています。

建築と美術

エル・タヒンの建築スタイルは、その独特の基壇構造や装飾が特徴です。特に、タルー・タブレロ基壇や壁龕の使用が目立ちます。建物は通常、赤色に塗られ、装飾的なニッチが施されています。また、階段のデザインや、未来的な構造が施された神殿も存在し、古代の人々が持っていた美意識や宗教観が垣間見えます。
遺跡内では、洗練された壁画や石彫が発見されており、それらは祭祀の儀式や神々への崇拝を描いたものとされています。特に「壁龕のピラミッド」の周囲からは、神々や王の姿を模した石彫が集中しており、聖域としての重要性が高かったことを示唆しています。

球戯の文化

エル・タヒンでは、球戯が重要な儀式として行われており、17の球戯場が確認されています。この文化的な活動は、王の権威や宗教的信念と深く結びついており、儀式としての側面が強調されます。球戯場は、戦争や生贄の儀式と関連していると考えられており、王の権威を示す重要な要素でした。

世界遺産としての重要性

エル・タヒンは、文化遺産として非常に貴重な情報源を提供しています。特に、宗教や社会構造、政治的背景について多くを語る遺跡であり、エル・タヒンが持つ独自の建築様式や石彫は、古典期のメソアメリカ文明の理解を深めるための鍵となっています。現代においても、その重要性は変わらず、多くの研究者にとっての関心の的であり、訪れる観光客にとっても魅力的な場所となっています。

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