エレクトローラ

エレクトローラ（Electrola）

ドイツの音楽産業において長い歴史を持つレコードレーベル、エレクトローラは、その設立から現在に至るまで、幾度かの組織再編を経て存続してきました。

設立と初期の変遷

このレーベルは、1925年に英国のグラモフォン社（The Gramophone Company Ltd.）によってドイツの首都ベルリンに設立されました。当時の英国グラモフォン社は、世界の主要なレコード市場に進出しており、ドイツ市場への足がかりとしてエレクトローラを立ち上げたのです。

設立から数年を経た1931年には、親会社である英国グラモフォン社が同業の英国コロムビア社（Columbia Graphophone Company）と合併し、巨大音楽企業EMI（Electric and Musical Industries Ltd.）が誕生しました。この組織再編に伴い、ドイツのエレクトローラも、EMIグループの一員として英国コロムビアの子会社であったカール・リンドストレーム社（Carl Lindström Company）と統合されました。この統合により、レーベルの名称は「リンドストレーム・エレクトローラ」（Lindström-Electrola）と改称され、新たな体制で活動を継続することとなりました。

戦後の展開と「His Master's Voice」商標

激動の第二次世界大戦が終結した後、ドイツの降伏条件の一つとして、ドイツ国内で使用されていた特定の資産や権利の扱いに変更が生じました。その中には、ドイツ・グラモフォン社（Deutsche Grammophon Gesellschaft）が保有していた有名な商標「His Master's Voice（HMV）」（ニッパー犬のロゴで知られる）も含まれていました。

この商標は、戦後、英国EMI社によって接収されることとなり、ドイツ国内における「His Master's Voice」商標の使用権は、EMI傘下であるエレクトローラが引き継ぐこととなりました。これにより、エレクトローラはドイツにおけるHMVの正規使用レーベルとしての地位を確立し、多くのレコードにこの象徴的なロゴを冠してリリースするようになりました。これは、ドイツの音楽市場におけるエレクトローラの存在感を一層高める出来事でした。

近年の組織再編と現在の役割

21世紀に入ると、世界の音楽業界はデジタル化の波や企業の合併・買収など、さらなる大きな変化を迎えます。2002年には、エレクトローラは同じEMIグループ傘下にあったヴァージン・レコードのドイツ法人（Virgin Records Germany）と合併し、社名を「EMI Music Germany」と変更しました。これにより、エレクトローラはEMI Music Germany社内の一レーベルという位置づけとなりました。

さらに、2013年には、長年にわたり親会社であったEMIグループが分割されるという、音楽業界史における画期的な出来事がありました。EMIの主要部分はユニバーサル・ミュージック・グループ（Universal Music Group, UMG）とワーナー・ミュージック・グループ（Warner Music Group, WMG）に売却されることとなりました。

この分割の際、かつてドイツ・グラモフォンから引き継いだ「エレクトローラ」というブランド（商標）は、世界最大の音楽企業であるユニバーサル・ミュージック・グループに引き継がれることになりました。現在、エレクトローラはユニバーサル・ミュージック・グループの一部門として機能しています。特に、ホルスト・ヤンコフスキー氏のような著名なアーティストの作品を含む、ドイツ国内で制作された旧ポリグラム系の豊富な音源カタログを管理する重要な役割を担っています。

時代と共にその形や所属を変えながらも、エレクトローラはドイツの音楽文化史において確かな足跡を残し、現在もユニバーサル・ミュージック・グループの一員として、貴重な音源の保存と活用に貢献し続けているレーベルと言えるでしょう。

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