エンジェルス・オブ・ラヴ

エンジェルス・オブ・ラヴ

『エンジェルス・オブ・ラヴ』は、スウェーデン出身のギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンが2009年に世に送り出した通算17作目のスタジオ録音盤です。このアルバムは、彼のこれまでのキャリアにおいて比較的静謐な作品として位置づけられます。

概要とコンセプト

本作は、過去に発表された楽曲の中から厳選された9曲のバラードを、新たなアレンジでレコーディングし直したものが中心となっています。これに、唯一の未発表曲「Ocean Sonata」を加えた計10曲で構成されており、ボーカルパートを含まない純粋なインストゥルメンタル作品集であることが最大の特徴です。

アグレッシブな速弾きやクラシカルなリフワークで知られるイングヴェイですが、このアルバムではその激しい側面を封印し、叙情的なメロディと情感豊かなギタープレイに焦点が当てられています。選曲されたバラード群は、彼のソングライティングにおけるメロディメーカーとしての才能を改めて浮き彫りにしています。

サウンドとアレンジ

収録曲は、主にアコースティックギターを基調としたアレンジで再構築されています。それに加えて、荘厳なストリングス、温かみのあるキーボード、そしてクワイア（合唱）といった要素が導入されており、原曲が持つメロディラインに深みと広がりを与えています。

イングヴェイ自身がギターシンセサイザーを含む多種の楽器を演奏しているため、個々のパートが緊密に連携し、統一感のあるサウンドスケープを形成しています。アコースティックギターの繊細な響き、クラシックギターのエレガントな音色、スチールギターの滑らかなトーン、そして必要に応じて加えられるエレクトリックギターのロングトーンや泣きのプレイが、各楽曲の叙情性を際立たせています。ストリングスやクワイアの導入は、まるで映画音楽のような壮大さや神聖さを楽曲にもたらしています。

ジャケットと背景

アルバムのジャケット写真に採用されている女性は、イングヴェイの妻であるエイプリル・マルムスティーンです。彼女が被写体となることで、アルバムタイトルに含まれる「ラヴ」というテーマや、作品全体のパーソナルで情感豊かな雰囲気が視覚的にも表現されています。

日本盤の帯解説には、2009年の日本凱旋公演ツアーに合わせて本作が発表されたことが示唆されています。また、「早弾きでアグレッシヴなばかりがイングヴェイじゃない！叙情的で素晴らしいアルバムをも聴かせる事が証明されたアルバム」という言葉からは、従来のイメージにとらわれず、彼のメロディアスで感情的な表現力にスポットを当てた作品であることを強調しようとする意図が読み取れます。

参加ミュージシャン

本作のレコーディングには、イングヴェイ・マルムスティーン自身がアコースティックギター、スチールギター、クラシックギター、エレクトリックギター、チェロ、キーボード、そしてギターシンセサイザーと、多岐にわたる楽器を演奏して参加しています。実質的に彼の多重録音作品の色合いが濃いですが、キーボード奏者としてマイケル・トロイ・アブダラがクレジットされており、サウンドの構築に貢献しています。また、ミックス・エンジニアはキース・ローズが担当しています。

作品の位置づけ

『エンジェルス・オブ・ラヴ』は、イングヴェイのディスコグラフィーの中ではやや異質な位置を占める作品と言えるでしょう。彼の代名詞である高速かつテクニカルなプレイを前面に出すのではなく、あくまでメロディとアレンジの美しさを追求しています。攻撃的なスタイルを期待するリスナーにとっては意外性のある作品かもしれませんが、彼の持つメロディセンスやクラシック音楽からの影響、そして情感的なギターワークに魅力を感じるリスナーにとっては、深く心に響く作品となるでしょう。叙情的で静謐なサウンドスケープは、日々の喧騒から離れ、じっくりと音楽に浸りたいときに最適な一枚と言えます。これは、スラッシーなリフやシャウトするボーカルが一切ない、純粋な器楽曲としてのイングヴェイの音楽を堪能できる作品なのです。

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