エンター・ザ・ボイド

エンター・ザ・ボイド

『エンター・ザ・ボイド』は、2009年に公開されたフランス映画で、ギャスパー・ノエが監督を務めた作品です。日本では2010年に公開され、そのスタイルと内容から大きな話題を呼びました。映画は第62回カンヌ国際映画祭に出品され、163分のバージョンが上映されました。さらに第34回トロント国際映画祭でも155分版が公開されています。

ストーリー概要

物語は、オスカーという若者を中心に展開します。彼は妹のリンダとともに東京の歌舞伎町に住んでおり、日々の生活に麻薬を取り入れて精神を維持しているという状況に置かれています。オスカーの友人であるアレックスが提案した「チベット死者の書」に興味を示さない彼は、ドラッグの使用に依存し、自らの存在意義を見失っていきます。

物語はリンダが仕事に出かけるシーンから始まり、オスカーはDMTという麻薬を使用して内省的な思考にふけります。彼は友人ビクターからの電話を受け、行きつけのバー「THE VOID」に向かいます。しかし、オスカーはそのバーで警察に追われ、最終的には命を落とすことになります。ここから物語は、オスカーの視点を通じて展開されます。

オスカーが死んだ後、彼の精神は俯瞰的な視点で物語を見つめることとなります。彼の死によって悲しむリンダや、事の発端となったビクターは、それぞれ異なる形で人生を続けていかなければならなくなります。

過去の回想

映画はオスカーとリンダの幼少期の思い出へと遡ります。両親との旅行から始まり、交通事故により両親を一瞬で失った痛ましい出来事が描かれます。兄妹は愛情を育みながら、長い間一緒にいることを誓いますが、運命の力によって引き離されてしまいます。

オスカーは成長し、東京での生活を始め、アレックスという友人と出会います。アレックスは妹を東京に呼ぶための資金調達のためドラッグの売人になることを提案し、不幸なサイクルに引き込まれていく様子が描かれます。

オスカーの死後

オスカーの死後、リンダは深い悲しみに暮れ、さらに自らも危険な道へと踏み込むことになります。彼女は日本語の妊娠検査薬を使って自らの妊娠を知り、その子供がマリオの子であることを理解し、中絶を選択することに決めます。

アレックスは逃亡生活を続け、家族との関係が崩れる中で生き延びようとします。彼の中にはオスカーの影が常に感じられ、彼の存在が彼自身にも影響を与えていることが示唆されます。

終焉と解釈

映画のクライマックスでは、オスカーの精神が再生を迎えるかのように描写されます。新生児の視点で描かれる最終シーンでは、オスカーが母親の元へと戻るところで物語は完結します。その瞬間がオスカーの全ての記憶のフラッシュバックへとつながり、過去の痛みが浄化されるかのような印象を与えます。

映画『エンター・ザ・ボイド』は、個々の登場人物が直面する運命や愛、死に対する考察を織り交ぜ、独特なビジュアルスタイルで観るものに強烈な印象を残します。ギャスパー・ノエの独特な視点から、人生の儚さと奇跡の重なりを描いたこの作品は、鑑賞者に深い感慨を与えます。

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