エンリケ・バティス

エンリケ・バティス

エンリケ・バティス・キャンベル（Enrique Bátiz Campbell, 1942年5月4日 - 2025年3月30日）は、メキシコ出身の著名な指揮者です。

人物とキャリア

メキシコシティに生まれたバティスは、幼少期から音楽の非凡な才能を示し、神童として名を知られました。わずか5歳でピアニストとして公の場で演奏を行うなど、早くからその才能を発揮しました。

彼のキャリアにおける重要な一歩は、1971年にメキシコ州立交響楽団を創設し、その主任指揮者に就任したことです。彼はこのオーケストラを率いて、メキシコの音楽文化の発展に貢献しました。

1980年代に入ると、バティスは活動の場をヨーロッパにも広げます。1984年以降、彼はロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとする、特にイギリスの主要なオーケストラを中心に頻繁に共演を重ねました。世界各地のオーケストラへの客演は400回以上に及び、その旺盛な活動は多くの人々に知られています。また、彼は非常に多作な録音家でもあり、残されたアルバムは160枚を超える膨大な数に上ります。

音楽性と評価

バティスの指揮スタイルは、時にそのパワフルでダイナミックな演奏から、日本では「爆演系」と形容されることもありました。しかし、彼の音楽性はそのような単純な分類には収まりません。彼は作品の様式に対する鋭い直感力を持ち、卓越したリズム感と豊かなオーケストラの色彩を引き出す手腕に恵まれていました。

特にヨーロッパのオーケストラと共演する際には、単なる力強さだけでなく、繊細さと雄渾さを兼ね備えた、情感豊かな表現力を発揮しました。彼はとりわけヨーロッパのロマン派音楽を得意とし、ビゼーの管弦楽曲集、チャイコフスキーの交響曲第6番《悲愴》、ショスタコーヴィチの交響曲第5番などが代表的な録音として高く評価されています。

晩年と日本での受容

2017年には、バティスはパーキンソン病を患ったことにより、長年率いたメキシコ州立交響楽団のポストを辞任しました。しかし、音楽への情熱は衰えず、晩年も意欲的に活動を続け、2023年からはイダルゴ州自治交響楽団の指揮者として指揮台に立ち続けました。

日本においては、彼の情熱的な演奏スタイルと豊富な録音から、一部のクラシック音楽愛好家の間で熱狂的なカルト的人気を博しました。しかし、2022年10月に主要な輸入元が取り扱いを終了したことにより、ワーナーやAltoからの再発盤などごく一部を除き、彼の録音の多くが国内では入手困難な廃盤状態となっています。

エンリケ・バティスは、2025年3月30日に82歳でその波乱に満ちた生涯を閉じました。彼の残した膨大な録音と情熱的な音楽は、今後も多くの聴き手に語り継がれるでしょう。

もう一度検索