エヴァルト・ヘリング

カール・ヘリング：生理学者、神経科学者、そして色覚理論のパイオニア

カール・エヴァルト・コンスタンティン・ヘリング (1834年8月5日-1918年1月26日) は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した、ドイツを代表する生理学者、神経科学者です。彼は色覚、両眼視、眼球運動、そして感覚の鋭敏さに関する研究で知られ、特に色覚理論における画期的な業績により、今日でもその名を記憶されています。

生涯：貧しい家庭から大学教授へ

ヘリングはザクセン王国アルト・ゲルスドルフの貧しい家庭に生まれました。ルーテル派の牧師の息子であった彼は、ツィッタウのギムナジウムを経て、1853年にライプツィヒ大学に入学。哲学、動物学、医学を学び、1860年に医学博士号を取得します。

彼の初期の研究環境は必ずしも恵まれていたわけではありませんでした。当時のドイツを代表する生理学者、ヨハネス・ペーター・ミュラーへの師事願いは却下されたとも言われています。この経験が、ミュラーの弟子であるヘルマン・フォン・ヘルムホルツへの批判的な姿勢につながった可能性も指摘されています。しかし、ライプツィヒ大学にはエルンスト・ヴェーバーやグスタフ・フェヒナーといった、精神物理学の巨匠たちがいました。ヘリングが直接彼らの指導を受けた証拠はありませんが、晩年には「フェヒナーの弟子」と自称していたという逸話も残っています。

卒業後、ライプツィヒで開業医として活動する傍ら、ヘリングは両眼視とホロプター（両眼の網膜上に同じ点として投影される空間の点）の研究に没頭しました。そして、まだ無名の研究者であったにもかかわらず、ヘルムホルツとは独立してホロプターの数学的導出を発表。当時、ドイツ最高の科学者、数学者と謳われたヘルムホルツの導出における誤りを指摘するなど、科学界に衝撃を与えました。

1870年にはウィーン陸軍士官学校の生理学教授に就任。より充実した研究環境のもと、心臓と呼吸器系に関する重要な研究成果を挙げます。その後、1870年にはプラハ大学に移り、チェコの民族主義者とドイツ人教授との間で起こった激しい論争の中心人物の1人となります。1882年には、ドイツ語教育を重視する独立大学である帝国立チェコ・カレル・フェルディナンド大学が設立され、ヘリングは初代学長に就任するという栄誉に浴しました。

晩年はライプツィヒ大学に戻り教授職に就き、1915年に61歳で引退。3年後の1918年、結核のため死去しました。ヘリングは無神論者であったと伝えられています。

ヘリングの業績：反対色説

ヘリングの最も重要な業績は、色覚理論における「反対色説」の提唱です。これは、ヤング＝ヘルムホルツの三色説（赤、緑、青の三原色によって色が知覚されるという説）に対する挑戦でした。ヘリングは、赤と緑、黄と青は互いに拮抗する関係にある反対色であり、これらに加え白と黒を基本色とする四色説を提唱しました。

具体的には、網膜には「赤-緑」、「黄-青」、「白-黒」の3種類の対抗的な色覚細胞が存在すると仮定。これらの細胞の活性化と不活性化（ヘリングは「同化」と「異化」と呼んだ）のバランスによって、様々な色が知覚されると考えました。例えば、紫は「赤-緑」細胞の赤の活性化と「黄-青」細胞の青の活性化によって生じると説明しました。この説は、色の順応、対比、補色残像などの現象をうまく説明できることから注目を集めました。

当初は注目されませんでしたが、後に外側膝状体において、反対色説を支持する神経細胞が発見されたことで、生物学的にも裏付けられることとなります。現在では、「反対色過程」として色覚理論において重要な位置を占めています。

家族と影響

ヘリングの息子であるハインリッヒ・エヴァルト・ヘリングはツェルマク・ヘーリング反射を発見した眼科医として知られています。また、彼の祖父は建築家、おじは医師であったなど、知的な家系に生まれたことがうかがえます。さらに、彼の門下には、中国の生理学者である呉建がいます。

まとめ

カール・ヘリングは、困難な生い立ちを克服し、独自の研究で生理学、神経科学の発展に大きく貢献した偉大な科学者でした。彼の反対色説は、今日でも色覚理論において重要な概念であり、彼の業績は、今もなお研究者たちに影響を与え続けています。

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