エヴプラクシヤ・リャザンスカヤ

エヴプラクシヤ・リャザンスカヤ ― リャザン公国の悲劇の女

エヴプラクシヤ・リャザンスカヤ（Евпраксия Рязанская）は、1190年代に生まれ、1237年に亡くなったとされる、ロシアの歴史に名を刻む女性です。彼女はリャザン公国の公子フョードルの妻であり、特に『バトゥのリャザン襲撃の物語』に登場します。この物語は、モンゴル帝国の侵攻を背景にした悲劇的な出来事を描いています。

1237年、モンゴルの軍勢がルーシに侵攻する中、総司令官バトゥはリャザン公国に貢を要求します。この際、エヴプラクシヤの夫フョードルが使者として選ばれました。晴れた日差しの中で、フョードルがバトゥと向き合った時、バトゥは彼の妻エヴプラクシヤの美貌を称賛し、彼女を連れて来るよう命じます。しかしながら、フョードルは自らの妻を渡すことを固く拒否します。結果として、彼はバトゥの陣営で命を落とすこととなります。

夫の死を知らされたエヴプラクシヤは、幼い息子イヴァンを抱え、自らの命を絶つ決意を固めます。彼女は塔の上から飛び降り、壮絶な最期を遂げました。この事件の後、リャザンを離れたモンゴル軍によって、エヴプラクシヤ、彼女の息子イヴァン、そしてフョードルは共に埋葬されました。彼らはロシア正教会において「致命女」や「致命者」として認定されています。

エヴプラクシヤの家系についてのいくつかの記録では、彼女がビザンツ帝国の皇女であったとの説も存在します。特に『バトゥのリャザン襲撃の物語』や『ニコラ・ザラスキーの物語』がその記述に寄与しています。しかし、ビザンツ帝国は1204年から1261年までの間に歴史的な断絶があり、ロシアとの繋がりに関しての資料も乏しいため、これらの記録は学者たちの間で神話的な要素が強調されることが多くなっています。特に、ニカイア帝国の皇帝テオドロス1世にエヴプラクシヤという名前の娘がいたとの記録はありますが、具体的な証拠は不足しています。

『バトゥのリャザン襲撃の物語』には、エヴプラクシヤが塔から飛び降りた際の描写に興味深い言葉が用いられています。「身を打ち付けた」という表現は、「заразилась（ザラジリャ）」という言葉を使って表され、これは中世ロシア語で「打たれた」や「殺された」という意味を持っていました。この言葉は、後にエヴプラクシヤの伝説と共に、現代のロシアの地名「ザライスク」にもつながりを持つと考えられています。

エヴプラクシヤ・リャザンスカヤの物語は、彼女の息子や夫と共に、リャザン公国の悲劇的な歴史を映し出す重要な要素であり、現在も多くの研究者によって語り継がれています。彼女の運命は、時代を超えて人々に深い感動をもたらすものとして、今後も語り継がれることでしょう。

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