エール・アパレント

エール・アパレント（Eire Apparent）

北アイルランドで結成されたロックバンド、エール・アパレントは、短命ながらも後の著名なミュージシャンを輩出し、特にジミ・ヘンドリックスが唯一のアルバムでプロデュースと演奏を手がけたバンドとして歴史に名を刻んでいます。その名称は、初期の日本盤では「エア・アペアレント」と表記されることもありました。

バンドの変遷

グループのルーツは、1960年代初頭のベルファストにまで遡ります。前身となるバンドの一つ、トニー&ザ・テルスターズには、後にエール・アパレントの核となるドラマーのデイヴィ・ラットン、ベーシストのクリス・スチュワートらが在籍していました。メンバーの出入りを経て、ギタリストのデイヴィッド "タイガー" テイラーや、後のエール・アパレントのフロントマンとなるアーニー・グラハム（リズムギター、バッキングボーカル）が加入しました。

1965年後半、ラットン、グラハムらは、元ゼムのキーボード奏者エリック・ウリクソンらとともに、ポップ色の強い「ザ・ピープル」を結成。ベルファストの有名なクラブを拠点に活動し、コンピレーション・アルバムにも楽曲を提供しました。バンドはイギリスへの移住を決めますが、この頃にもメンバーチェンジが頻繁に起こります。そして1967年初頭、後にポール・マッカートニー&ウイングスでも活躍するギタリスト、ヘンリー・マカロックが加入し、ブラックプールやダブリンの音楽シーンでその実力を評価されるようになります。

ロンドンへ、そしてジミ・ヘンドリックスとの出会い

1967年、バンドはロンドンへ進出し、元アニマルズのマネージャーであったチャス・チャンドラーとマイク・ジェフェリーとの契約を獲得しました。ジェフェリーの妻の提案により、「アイルランド」を意味する「Eire」を冠した「エール・アパレント」へと改名します。彼らは一時、チャンドラーとジェフェリーがマネジメントしていたジミ・ヘンドリックスと同じトラック・レコードに所属し、シングル「Follow Me」を発表しました。しかし、この1枚のみでトラックを離脱します。

シングルの成功には至りませんでしたが、彼らはマネジメントの力で1968年2月から3月にかけて北米ツアーに参加します。このツアーはアニマルズがヘッドライナーを務め、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスやソフト・マシーンといった強力な顔ぶれも帯同していました。ツアー中にマカロックがマリファナ所持で逮捕されバンドを離脱するアクシデントに見舞われますが、後任にミック・コックスを迎えツアーを続行。1968年5月にはニューヨークでヘンドリックスと共にレコーディングを行いました。

彼らの唯一の公式アルバムとなる『サンライズ』（Sunrise）は、1968年10月下旬にロサンゼルスで制作され、ジミ・ヘンドリックスがプロデュースを担当しました。ヘンドリックス自身も多くの楽曲でギターを演奏しているほか、ノエル・レディングやミッチ・ミッチェルといったエクスペリエンスのメンバー、さらにロバート・ワイアット（ソフト・マシーン）も参加しています。このアルバムは1969年5月にリリースされましたが、大きな商業的成功には繋がりませんでした。アルバム発表後、ギタリストは再び "タイガー" テイラーに戻り、ヘンドリックスとのヨーロッパツアーやBBCでのセッションを経験しました。

その後の活動と解散

1969年5月にはセカンドアルバムの制作が報じられましたが、これは実現しませんでした。そして、目立った活動がないまま、バンドは1970年5月にひっそりと解散しました。

エール・アパレントのメンバーは、解散後も様々な音楽活動に関わりました。アーニー・グラハムはソロ活動や他のバンドへの参加を経て音楽業界を離れ、2001年に亡くなりました。デイヴィ・ラットンはマーク・ボランなどと共演。ベーシストのクリス・スチュワートはフランキー・ミラーの音楽的パートナーを務めるなど、長年にわたり第一線で活躍し、2020年にこの世を去りました。ヘンリー・マカロックはウイングスでの活動で最も有名となり、2016年に死去。ミック・コックスや "タイガー" テイラー、ピーター・トルソンらも、それぞれ異なるバンドやプロジェクトで活動を続けました。

エール・アパレントは短期間の活動ながら、後の音楽シーンを彩る才能がクロスオーバーし、特にジミ・ヘンドリックスとの共同作業を通じてその名を音楽史に刻んだ、北アイルランドの知られざる重要バンドと言えるでしょう。

ディスコグラフィー

主な公式リリースは以下の通りです。

"Follow Me" / "Here I Go Again" (シングル, 1968年)
"Yes I Need Someone" / "Let Me Stay" (シングル, 1968年)
"Rock 'N' Roll Band" / "Yes I Need Someone" (シングル, 1969年)
サンライズ (Sunrise) (アルバム, 1969年)

その他、前身バンド「ザ・ピープル」名義でのコンピレーション参加や、非公式なライブ録音、BBCセッション音源などが存在します。

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