オジギビト

オジギビト：工事現場の礼儀正しい案内人

工事現場の脇で、通行人に向けて頭を下げている作業員姿の看板キャラクターをご存知でしょうか？彼らは「オジギビト」と呼ばれ、工事への協力や安全への注意を促す役割を担っています。このユニークな名称は、漫画家のとり・みき氏によって名付けられました。

オジギビトの誕生と普及

「オジギビト」という言葉は、とり・みき氏の漫画『愛のさかあがり』から生まれました。作中で読者からオジギビトの写真を募集したところ、予想をはるかに超える反響があり、特集が組まれたほどです。しかし、同じく読者参加型の企画であった「イタイ話」が広く知られるようになったのとは対照的に、「オジギビト」の名は一部でしか広まりませんでした。その後も、とり・みき氏はオジギビトの紹介と募集を続け、2007年には収集したオジギビトをまとめた書籍『街角のオジギビト』を出版しています。

オジギビトの起源については明確な資料が少ないものの、昭和30年代に大成建設が自社用に制作した「安全坊や」が最初期のものと考えられています。1964年の東京オリンピックを前に、1966年頃には「つくし坊や」など類似の看板が登場し、高度経済成長期の建設ラッシュとともに日本全国の工事現場で見られるようになりました。

多様化するオジギビト

1980年代後半から1990年代にかけて、オジギビトのデザインは多様化しました。業者独自の意匠を凝らしたものが作られるようになり、動物をモチーフにしたオジギビトも登場しています。一方で、長年にわたって同じデザインが使われ続けているオジギビトも存在します。2016年には、宮崎県建設業協会がイメージキャラクターとして「オジギビト」を採用しました。

オジギビトの類型

とり・みき氏の著作『愛のさかあがり』や『街角のオジギビト』では、オジギビトはいくつかのタイプに分類されています。

「ご協力をお願いします」のタイプ
直立不動型: 最も一般的なタイプで、体を前屈させてお辞儀をしているように見えます。
ハニワ型: 片手を肩より上に上げているタイプで、敬礼や挨拶をしているように見えます。
仁義型: 腰を曲げ、片手を前に差し出している姿が、渡世人が仁義を切るように見えるタイプです。
モタレ型: 看板内のメッセージが書かれた部分にもたれかかっているタイプで、お辞儀の意図は薄れています。
立入禁止を呼びかけているタイプ
見得切り型: 歌舞伎役者のように手のひらをこちらに向けて停止を求めるタイプです。
ベンケイ型: 大の字のシルエットで描かれ、弁慶の立ち往生を彷彿とさせるタイプです。
礼儀正しいタイプ
安全帽を脱いで謝罪しているタイプです。

また、顔のパーツにも特徴的なものが見られます。例えば、底の平たい半円形の目をした「カマボコ目」や、えらが張った顔の「エラーマン」などがいます。

世界のオジギビト

日本以外にも、台湾や韓国でオジギビトに似た工事看板が見られます。しかし、欧米ではお辞儀の文化がないためか、人型のピクトグラムを用いた道路標識が一般的です。

オジギビトは、日本の工事現場における安全意識の向上と、地域住民への配慮を示す存在として、今日も街角で静かに頭を下げ続けています。

もう一度検索