オスヴォルト・クレルの肖像

アルブレヒト・デューラー作『オスヴォルト・クレルの肖像』は、1499年に制作された板上の油彩画で、ルネサンス期ドイツを代表する巨匠デューラーの初期の傑作として知られています。現在はミュンヘンのアルテ・ピナコテークに所蔵されています。

この作品のモデルであるオスヴォルト・クレルは、リンダウ出身の商人であり、1499年から1500年にかけてニュルンベルクに滞在しました。彼の肖像からは、その気性の激しさが窺えます。特に目、口元、鼻筋、そして左手のポーズには、彼の強い意志が表れているかのようです。リンダウに戻った後は市長を務めるなど地域の名士となりましたが、ニュルンベルク滞在時には市民を侮辱したとして一時収監された記録も残っています。

作品の構成は、従来の肖像画に見られるような室内空間と窓から見える風景といった設定を排し、大胆に色面を分割しています。赤い背景と風景は、自然な繋がりを持たず、それぞれが独立した要素として存在しています。これは、『ハラーの聖母』や『自画像』などの作品とは異なる特徴です。モデルを腰までの姿で捉え、鋭角的な胸元の描写や、風景の主要なモチーフである樹木など、画面全体に縦方向の要素を強調しています。このような構成は、モデルの性格を表現する意図があると考えられます。

この肖像画には、両翼パネルまたは蓋として描かれた2点のパネルが存在し、そこにはクレル家とクレルの妻の実家であるエーゼンドルフ家の紋章が描かれています。「紋章盾を持つ野人」というモチーフは、当時マルティン・ショーンガウアーの銅版画などにも見られるもので、『ハラーの聖母』にも同様のモチーフが描かれています。野人はカインの子孫とみなされていたとされています。

この作品は、デューラーの卓越した技術と、モデルの性格を深く読み解く洞察力が組み合わさった傑作です。肖像画としての完成度はもちろんのこと、大胆な構図や色彩の選択を通して、デューラーの芸術的な創造性を強く感じることができます。この作品は、デューラーが肖像画家としてその才能を開花させた初期の代表的な例として、美術史においても重要な位置を占めています。

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