オチキス

オチキス社：兵器から自動車、そしてエレクトロニクスへ

オチキス社は、1867年、アメリカ人技術者ベンジャミン・ホチキスによってフランスに設立された、兵器、自動車、そしてエレクトロニクス分野で活躍した企業です。その歴史は、19世紀後半のフランスにおける軍事技術発展と密接に関連しており、20世紀前半の自動車産業隆盛期にも大きな足跡を残しました。

創業から兵器生産へ

南北戦争後、フランスに移住したベンジャミン・ホチキスは、ロデーズ近郊に最初の工場を設立。その後、パリ近郊サン＝ドニへと拠点を移し、「Société Anonyme des Anciens Etablissements Hotchkiss et Cie」として本格的に事業を展開しました。

普仏戦争ではフランス軍への軍需物資供給を行い、アメリカ合衆国政府からも大砲を納入。ミル川での戦闘など、歴史的な出来事にも関与しました。オチキス社を代表する製品には、Mle1914機関銃やH35/H38/H39軽戦車、回転砲などがあり、その技術力は高く評価されていました。

20世紀に入ると財務状況が悪化。経営多角化のため、自動車産業への参入を決断します。これは創業者の息子であるAlfred Koernerによれば、フランス政府への依存度を下げるためだったと言われています。1900年のパリ万博では、サン＝ドニ工場の従業員400名、生産設備600台を誇る規模をアピールしました。

自動車事業への進出と発展

1903年、オチキス社は自動車製造に着手。最初のモデルは17馬力の4気筒車でした。エンブレムには、2つの大砲が交差するデザインが用いられ、その出自を象徴的に示しています。6気筒モデルの投入など、着実に事業を拡大していきましたが、第一次世界大戦中は兵器生産が中心となりました。

戦後、改良モデルAM型や新型6気筒モデルAM80を発表。モンテカルロ・ラリーで数々の優勝を果たし、その性能の高さを証明しました。代表的なモデルである「オチキス680」は、6気筒3リッターエンジンを搭載したアッパーミドルクラスの車として人気を博しました。高級仕様の6.6リッターAK型も開発されましたが、生産台数はわずか1台でした。

イギリス進出も試みましたが、試作車1台の完成にとどまりました。1937年にはアミルカーと合併。前輪駆動設計の専門家であるジャン＝アルベール・グレゴワールが参加し、アルミを多用した革新的なモデル「コンパウンド」の開発も進められました。しかし、第二次世界大戦の勃発により、企業活動は再び戦時体制へと移行せざるを得ませんでした。

戦後と事業の転換

終戦後、「680」の生産を再開、新たな4気筒モデル「13CV」も発売しました。1947年には、前輪駆動で2.2リッター水平対向4気筒エンジンを搭載した「オチキス＝グレゴワール」を発表。これは、グレゴワール独自の設計による野心的なモデルでしたが、品質や市場性の問題から大量生産には至りませんでした。

戦後復興政策による小型車優遇策の影響もあり、オチキス社は経営難に陥ります。1954年にはドライエを買収し、オチキス単独ブランドでの自動車生産を終了。トラック生産と、ウィリスからのライセンス生産によるジープ生産にシフトしました。

1956年にはブラントと合併し、「Hotchkiss-Brandt」となり、フランス軍向けジープ生産を継続。その後も合併を繰り返し、1970年には自動車生産を完全に終了し、社名は「Thomson-Brandt」へと変更されました。オチキスの社名は歴史の彼方に消えていったのです。

エレクトロニクス事業とその後

1968年にはエレクトロニクス事業が「Thomson-CSF」と合併。その後、国有化を経て、2010年には「テクニカラー」へと社名変更されました。

オチキスの名残

オチキスという社名は消滅しましたが、自動車業界では「オチキスドライブ」という動力伝達方式の名前に、軍需品分野ではホチキス砲やホチキス機関銃の名前にその名を残しています。事務用品のホッチキスとの関係は、俗説であるものの、興味深いエピソードとして残っています。オチキス社は、その歴史の中で、兵器、自動車、エレクトロニクスと様々な分野で技術革新を牽引し、フランス産業史に大きな足跡を残した企業でした。

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