ドライエ

ドライエ：フランス高級車メーカーの栄光と終焉

1894年、フランスのトゥールでエミール・ドライエによって創業されたドライエ社（Société des Automobiles Delahaye）は、当初は蒸気機関やポンプなどの機械製作からスタートしました。その後、自動車製造へと進出し、1894年には独自のガソリン自動車を完成させ、パリで発表しました。初期のドライエ車は単気筒・ベルトドライブのリアエンジン車であり、パリ-マルセイユ・レースへの参戦などを通じて知名度を高めていきました。

1898年にはパリに移転し、生産規模を拡大。しかし、エミール・ドライエは1901年に経営から退き、1905年に死去。その後はモラン一族が経営を引き継ぎました。第一次世界大戦後までは主にトラック生産を主力として堅実な経営を続け、消防車や大型農業機械なども製造していました。乗用車の生産も1927年から開始しましたが、大きな成功には至りませんでした。

高級車への転身とレースでの活躍

ドライエ社の転機は1932年に訪れます。経営陣は、世界恐慌の影響下、経営の打開策として高級車・レーシングカー分野への本格参入を決断しました。エンジニアたちはトラック用エンジンをベースにした高性能エンジンを開発。このエンジンは信頼性が高く、スムーズな動作も兼ね備えており、高級車にも最適でした。

1933年のパリ・サロンでは、新型車「ドライエ・シュペル・リュクス」12CVと18CVを発表。革新的な技術と高い性能で大きな注目を集め、モンレリー・サーキットでのスピード・トライアルでは耐久速度レコード18種を樹立しました。

1935年には、経営不振に陥っていたドラージュ社を吸収合併。ドラージュのブランドはドライエ社と併存することとなり、技術的なシナジーが図られました。この頃には、戦後まで生産される6気筒車「135」を発表。フィゴーニ・エ・ファラッシ、アンリ・シャプロン、レトゥノール・エ・マルシャンといった有名なカロシェ（車体架装メーカー）が、豪華絢爛なボディを架装しました。これらの車は、コンクール・デレガンスで高い評価を得ました。

モータースポーツにも積極的に参戦し、特に「145」と呼ばれるV型12気筒エンジンを搭載したレーサーは、1938年のベルギーのポーで行われたレースでメルセデス・ベンツを破って優勝しました。「135」の改良版である「135M」「135MS」もル・マン24時間耐久レースで活躍し、1938年には優勝を飾りました。

戦後と衰退

第二次世界大戦後、ドライエ社は「135」の生産を再開し、乗用車分野への復帰を果たしました。しかし、戦後のフランスでは高級車への高額課税が行われるようになり、ドライエ社の高級車は市場から遠ざかってしまいました。シャーシ周りの技術的アップデートも遅れ、油圧ブレーキの採用なども遅れたため、競争力を維持することが困難になりました。

1951年には軍用四輪駆動車を開発しましたが、経営悪化は止まらず、1954年にはオチキス社に合併されました。乗用車生産は中止され、「ドライエ」の名は自動車業界から消滅しました。ドライエ社の歴史は、技術革新と美しいデザインを追求したフランスの高級車メーカーの栄光と、時代の変化による衰退を物語るものです。 その存在は、フランス自動車史において重要な位置を占めています。

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