オデュッセウスとディオメデスに発見されるアキレウス

この絵画は、17世紀フランドルのバロック期を代表する画家、アンソニー・ヴァン・ダイクによって1617年から1618年にかけて制作されました。しかし、巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスもこの作品に手を加えており、両者の才能が融合した作品として知られています。

主題となっているのは、ギリシャ神話におけるトロイ戦争のエピソードです。アキレウスは、予言によってトロイ戦争で命を落とす運命にあるとされていました。彼の母は、その運命を回避させるため、アキレウスを少女としてリュコメデス王の宮廷に匿いました。アキレウスはそこで王の娘たちと生活を共にし、デイダメイアと恋仲になります。

一方、オデュッセウスとディオメデスは、トロイ戦争においてアキレウスの力を必要としていました。彼らはアキレウスがリュコメデスの宮廷にいることを突き止め、商人になりすまして宮廷を訪れます。そして、アキレウスを誘い出すために、宝石や女性の装飾品など様々な贈り物を娘たちに贈ります。期待通り、アキレウスは女性の装飾品には目もくれず、武器に強い興味を示し、自身の男としての本性を現しました。

絵画の中央には、剣を抜こうとするアキレウスを、右側にいるオデュッセウスが非難する様子が描かれています。オデュッセウスはアキレウスに対し、トロイ人と戦うために参戦するよう説得します。一方、左側にはデイダメイアがおり、アキレウスが遠くへ出発することを悟り、悲しみに打ちひしがれています。彼女は当時すでにアキレウスの子を身ごもっていました。

ケンブリッジのフィッツウィリアム美術館には、本作の下絵としてルーベンスによる油彩画が所蔵されています。この下絵と比較すると、完成作では構図に大きな変更が加えられていることがわかります。一般的にルーベンスの油彩下絵と完成作を比較すると、人物が画面に対して大きく描かれ、ポーズがより明確で静的に、そして構成がより緊密になる傾向があります。これらの点から、完成作にはルーベンスの最終的な意図が反映されていると考えることができます。

この作品を前にすると、美術史家であっても、制作の大部分がヴァン・ダイクによるものであることを見抜くことは容易ではありません。しかし、ヴァン・ダイクが制作に関与していることを前提に見ると、「やや唐突な明暗の肉付け」「肌理の粗さ」「生気あふれるハイライト」などにヴァン・ダイク特有の表現が見て取れるとも言われています。しかし、別の研究者の中には、「この絵からヴァン・ダイクの手を認めることは不可能だ」と断言する者もおり、制作の分担に関する見解は研究者の間で分かれています。

ヴァン・ダイクのルーベンス風の巧みな模倣と、ルーベンスによる巧みな加筆によって、この絵画はルーベンスの作品と言っても遜色ないほどの高い水準に仕上がっています。ウィーン美術史美術館に所蔵されている『皇帝テオドシウスと聖アンブロシウス』と同様、この作品は二人の巨匠の才能が融合した傑作として、美術史にその名を刻んでいます。

参考文献

『ルーベンス栄光のアントワープ工房と原点のイタリア』、Bunkamuraザ・ミュージアム、毎日新聞社、TBS、2013年刊行
山崎正和・高橋裕子『カンヴァス世界の大画家13 ルーベンス』、中央公論社、1982年刊行 ISBN 978-4-12-401903-2

外部リンク

* プラド美術館公式サイト、アンソニー・ヴァン・ダイク、ピーテル・パウル・ルーベンス、『オデュッセウスとディオメデスに発見されるアキレウス』（英語）

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