オトガイ下動脈

オトガイ下動脈

オトガイ下動脈（学術名：Submental artery）は、顔面領域へ血液を供給する主要な動脈の一つである顔面動脈から分かれる重要な血管です。この動脈は特に顎の下にあたるオトガイ下部を走行しており、頭頸部の血管系のうちでも特筆すべき存在です。

走行経路

顔面動脈が頸部を走行する際、顎下腺が存在する領域で最も大きな枝として分岐するのがオトガイ下動脈です。分岐後、この動脈は顎舌骨筋の下側を前方に向かって進みます。その後、下顎骨の本体部分のすぐ下を通り、さらに前方の顎二腹筋の下側へとその経路をたどります。

栄養供給と他の血管との連結

オトガイ下動脈はその走行中に、周囲にある様々な筋肉組織へと血液を供給する役割を担います。また、顎の下側の皮膚組織への血流もこの動脈によって支えられています。さらに、重要な点として、オトガイ下動脈は他の主要な血管との連結（吻合）を形成しています。具体的には、舌下動脈や、下歯槽動脈から分岐する顎舌骨筋枝といった血管と連絡を持っています。

下顎骨の前方中央部である下顎結合部に近づくと、オトガイ下動脈は下顎骨の下縁に沿って急な角度で上方へと向きを変えて走行します。

分枝

下顎骨の縁を上へ向かう部分で、オトガイ下動脈は二つの主要な分枝、すなわち浅枝と深枝を出します。

浅枝

浅枝は、皮膚のすぐ下層にある組織と、下唇を引き下げる働きを持つ下唇下制筋との間を進みます。この浅枝は、口唇へと向かう下唇動脈と連結することで、血流ネットワークの一部を形成します。

深枝

一方、深枝はより深層に位置し、筋肉組織と骨との間を進みます。この深枝は口唇へ血液を送る役割を担っており、その過程で下唇動脈とも連絡を形成します。さらに、下歯槽動脈から派生するオトガイ動脈とも吻合することが知られています。

特殊な供給領域

興味深いことに、稀なケースではありますが、舌下動脈が十分に発達していない、あるいは欠如している場合などには、オトガイ下動脈が顎舌骨筋を貫いて、通常は舌下動脈が供給する領域である下顎の前歯部分の舌側歯肉にまで枝を伸ばして血液を供給することが報告されています。

臨床的意義

オトガイ下動脈は、その安定した血流と周囲組織との関係から、臨床分野、特に形成外科において重要な血管として認識されています。この動脈に付随する皮膚や組織を、顔面や口腔内の損傷または欠損部を再建する手術の際に、「皮弁」として利用することがあります。これは、血管付きの組織を移植することで、移植部位への確実な血流供給を確保し、組織の生着率を高めるためです。

このように、オトガイ下動脈は、顎下の主要な血管として、様々な組織への栄養供給を担うだけでなく、他の血管との複雑な連絡を持ち、さらには医療現場における再建手術においても重要な役割を果たしています。その解剖学的知識は、歯科医療や口腔外科、形成外科などの分野で不可欠なものです。

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