オトシブミ
オトシブミ（学名：Apoderus jekelii）は、コウチュウ目オトシブミ科に属する昆虫の一種です。その名の通り、切り取った葉を巻いて地面に落とす独特の産卵行動で知られるオトシブミの仲間ですが、特にその鮮やかな血赤色の前翅が強い印象を与え、比較的大型であることから見分けやすい種として知られています。ナミオトシブミという別名でも呼ばれます。
成虫の体長は、口吻（口の部分）を除いて約7mmから10mmに達し、オトシブミ科の仲間では大型の部類に入ります。全身の基本色は黒ですが、前胸背板の後縁から続く前翅が目立つ血赤色をしているため、その色が最も印象的です。ただし、ごく稀に全身が黒い個体も見られます。頭部の形状には雌雄で違いがあり、雄は細長い倒卵円錐形、雌はやや丸みを帯びた卵形をしています。前胸背板も同様に雌雄差があり、雄は前方が強く細まり縦溝や点刻が見られますが、雌は幅より短く側面が丸く、前方へは首のように細まります。結果として、この種は頭部後方と前胸前方が細く「首」のように見えますが、雄ではこの「首」の部分が長く、雌では短いのが特徴です。前翅の表面には点刻の列がありますが、その点刻はまばらで大きめです。全体として、やや胴が長い体形をしています。
オトシブミは年に一度繁殖する一年一化性の昆虫で、成虫の姿で冬を越します。春から初夏にかけて、雌成虫は繁殖活動に入ります。繁殖のために選ばれるのは、クリ、ナラ、クヌギ、ハンノキなどの広葉樹の葉です。雌はこれらの葉に巧妙な加工を施し、「揺籃（ようらん）」と呼ばれる筒状の産卵構造物を作り上げます。揺籃作りを終えると、その中に1個の卵を産み付けます。卵から孵化した幼虫は、この揺籃を内側から食べ進んで成長します。そして、初夏にあたる6月から7月頃になると、新しい成虫が羽化してきます。一匹の雌は生涯で20から30個程度の卵を産むとされています。また、繁殖期には雄同士が雌を巡って争う様子が見られることがあります。この争いは、二匹の雄が向かい合って後肢で立ち上がる姿勢を取り、一方が立ち去るまで続くというユニークなものです。
オトシブミ類の揺籃作りは種によって特定の様式が決まっているのが一般的ですが、このオトシブミは複数の異なる作り方を併用することが知られており、これは珍しい例です。揺籃作りの始まりは、通常、葉の縁から切れ込みを入れることから始まります。この切れ込みが片側の縁からのみ入るものを「単裁型」、両側の縁から主脈まで入るものを「両裁型」と呼びますが、オトシブミではこの両方のタイプが見られます。
単裁型の場合、雌はまず葉の端から主脈に対してほぼ垂直に切れ込みを入れ、主脈を越えたあたりで止めます。葉が小さければ縁近くまで切り込みます。次に、主脈の葉裏側に一定間隔で噛み傷を付け、主脈を軸に葉の表側を内側に折り畳みます。これにより、切り取られた先端側には本来とは逆の表裏（二次的な裏面と表面）が生まれます。雌はこの二次的な裏面を内側にして、切れ込み線まで巻き上げていきます。巻き上げが終わると、二次的表面の最上部を反転させ、葉本来の表面が外側になるように仕上げます。卵はこの葉の先端側に産み付けられます。
両裁型では、最初の工程で葉の両側の縁から主脈まで切れ込みを入れます。それ以降の手順、つまり主脈に噛み傷を付け、主脈を中心に表側を合わせて折り畳み、巻き込んでいく工程は単裁型とほぼ同様です。
さらに、本種では切れ込みを全く入れない「無裁型」の揺籃作りも知られています。これは、葉の縁から切り離すことなく、葉柄に近い主脈部分に噛み傷を付け、そこから葉先に向かって一定間隔で噛み傷を作りながら、両裁型と同様に葉を二つ折りにした後、巻き上げていく方法です。単裁型の揺籃は葉に付いたまま残されますが、両裁型と無裁型で作られた揺籃は、完成後に雌が揺籃の付け根の主脈を噛み切り、地面に落下させます。
日本では九州から北海道にかけての各地に広く生息しています。国外では朝鮮半島やシベリアからも記録があります。
オトシブミ類には多くの種類が存在しますが、オトシブミはその中でも大型であること、そして特に鮮やかな赤い前翅が目立つことから、他の種との識別は比較的容易です。体色に全身黒の変異はありますが、赤い前翅の点刻が粗く大きいことや、全体的に細長い体形なども識別のポイントとなります。
クリの葉を切り取るため、農業においては害虫と見なされることもありますが、その被害はごく軽微で、実質的な問題となることはほとんどありません。
昆虫採集を趣味としていたことで知られる作家、北杜夫は、その初期にこのオトシブミを採集した際の強い印象について自身の著書に記しています。血のように赤い前翅の色や、一般的なゾウムシとは異なる独特の頭部と胸部の形状から、当初これを全くの新種だと信じて大いに興奮したそうです。しかし、後に昆虫図鑑でそれが「普通種」として紹介されているのを見て、ひどくがっかりしたというエピソードはよく知られています。
特徴
成虫の体長は、口吻（口の部分）を除いて約7mmから10mmに達し、オトシブミ科の仲間では大型の部類に入ります。全身の基本色は黒ですが、前胸背板の後縁から続く前翅が目立つ血赤色をしているため、その色が最も印象的です。ただし、ごく稀に全身が黒い個体も見られます。頭部の形状には雌雄で違いがあり、雄は細長い倒卵円錐形、雌はやや丸みを帯びた卵形をしています。前胸背板も同様に雌雄差があり、雄は前方が強く細まり縦溝や点刻が見られますが、雌は幅より短く側面が丸く、前方へは首のように細まります。結果として、この種は頭部後方と前胸前方が細く「首」のように見えますが、雄ではこの「首」の部分が長く、雌では短いのが特徴です。前翅の表面には点刻の列がありますが、その点刻はまばらで大きめです。全体として、やや胴が長い体形をしています。
生態
オトシブミは年に一度繁殖する一年一化性の昆虫で、成虫の姿で冬を越します。春から初夏にかけて、雌成虫は繁殖活動に入ります。繁殖のために選ばれるのは、クリ、ナラ、クヌギ、ハンノキなどの広葉樹の葉です。雌はこれらの葉に巧妙な加工を施し、「揺籃（ようらん）」と呼ばれる筒状の産卵構造物を作り上げます。揺籃作りを終えると、その中に1個の卵を産み付けます。卵から孵化した幼虫は、この揺籃を内側から食べ進んで成長します。そして、初夏にあたる6月から7月頃になると、新しい成虫が羽化してきます。一匹の雌は生涯で20から30個程度の卵を産むとされています。また、繁殖期には雄同士が雌を巡って争う様子が見られることがあります。この争いは、二匹の雄が向かい合って後肢で立ち上がる姿勢を取り、一方が立ち去るまで続くというユニークなものです。
揺籃の多様な作り方
オトシブミ類の揺籃作りは種によって特定の様式が決まっているのが一般的ですが、このオトシブミは複数の異なる作り方を併用することが知られており、これは珍しい例です。揺籃作りの始まりは、通常、葉の縁から切れ込みを入れることから始まります。この切れ込みが片側の縁からのみ入るものを「単裁型」、両側の縁から主脈まで入るものを「両裁型」と呼びますが、オトシブミではこの両方のタイプが見られます。
単裁型の場合、雌はまず葉の端から主脈に対してほぼ垂直に切れ込みを入れ、主脈を越えたあたりで止めます。葉が小さければ縁近くまで切り込みます。次に、主脈の葉裏側に一定間隔で噛み傷を付け、主脈を軸に葉の表側を内側に折り畳みます。これにより、切り取られた先端側には本来とは逆の表裏（二次的な裏面と表面）が生まれます。雌はこの二次的な裏面を内側にして、切れ込み線まで巻き上げていきます。巻き上げが終わると、二次的表面の最上部を反転させ、葉本来の表面が外側になるように仕上げます。卵はこの葉の先端側に産み付けられます。
両裁型では、最初の工程で葉の両側の縁から主脈まで切れ込みを入れます。それ以降の手順、つまり主脈に噛み傷を付け、主脈を中心に表側を合わせて折り畳み、巻き込んでいく工程は単裁型とほぼ同様です。
さらに、本種では切れ込みを全く入れない「無裁型」の揺籃作りも知られています。これは、葉の縁から切り離すことなく、葉柄に近い主脈部分に噛み傷を付け、そこから葉先に向かって一定間隔で噛み傷を作りながら、両裁型と同様に葉を二つ折りにした後、巻き上げていく方法です。単裁型の揺籃は葉に付いたまま残されますが、両裁型と無裁型で作られた揺籃は、完成後に雌が揺籃の付け根の主脈を噛み切り、地面に落下させます。
分布
日本では九州から北海道にかけての各地に広く生息しています。国外では朝鮮半島やシベリアからも記録があります。
識別
オトシブミ類には多くの種類が存在しますが、オトシブミはその中でも大型であること、そして特に鮮やかな赤い前翅が目立つことから、他の種との識別は比較的容易です。体色に全身黒の変異はありますが、赤い前翅の点刻が粗く大きいことや、全体的に細長い体形なども識別のポイントとなります。
利害
クリの葉を切り取るため、農業においては害虫と見なされることもありますが、その被害はごく軽微で、実質的な問題となることはほとんどありません。
その他
昆虫採集を趣味としていたことで知られる作家、北杜夫は、その初期にこのオトシブミを採集した際の強い印象について自身の著書に記しています。血のように赤い前翅の色や、一般的なゾウムシとは異なる独特の頭部と胸部の形状から、当初これを全くの新種だと信じて大いに興奮したそうです。しかし、後に昆虫図鑑でそれが「普通種」として紹介されているのを見て、ひどくがっかりしたというエピソードはよく知られています。
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