ハンノキ

ハンノキ：湿地を彩る落葉高木

ハンノキ（学名: Alnus japonica）は、カバノキ科ハンノキ属に属する落葉高木です。古くから「榛（はり）」と呼ばれ、その名は「ハリノキ」の変化形であると考えられています。別名としてヤチハンノキ（湿地のハンノキ）があり、地域によってはヤチバと呼ばれることもあります。中国名は「日本榿木」ですが、「榛」は本来はハシバミを指し、赤楊という漢名も誤用です。花言[[葉]]は「忍耐」と「剛勇」。

ハンノキの形態

樹高は4～20メートル、幹の直径は最大60センチメートルに達します。生育環境によって大きく成長が異なり、湿地周辺の肥沃な土地では高さ30メートルを超える大木になることもありますが、湿地の中心部では生育が阻害される傾向があります。樹皮は紫褐色から暗灰褐色で、縦に浅く裂けて剥がれます。

葉は長さ5～13センチメートルの長楕円形から長楕円状卵形で、互生します。葉縁には浅い鋸歯があり、側脈は7～9対。葉の寿命は比較的短く、緑のまま落葉する様子が見られます。特に春先に伸びた葉は夏葉よりも早く落葉するため、6～7月には春葉がまとめて落ちるという報告もあります。樹形にはいくつかのタイプがあるようです。

花期は11月から4月頃で、葉に先立って開花します。雌雄同株で、雄花穂は枝先に1～5個垂れ下がり、黒褐色の円柱形をしています。雌花穂は楕円形で紅紫色を帯び、雄花穂の下部の葉腋に1～5個つきます。花自体は目立ちませんが、密集地では花粉による喘息の発生が報告されています。

果実は松かさ状で、10月頃に熟し、長さ15～20ミリメートルの珠果状になります。この松かさ状の実は翌春まで残ります。冬芽は互生し、枝先に付く雄花序と基部の雌花序はともに裸芽で赤みを帯びています。

ハンノキの生態

ハンノキの根には根粒菌が共生しており、窒素固定能力を持っています。低地の湿地や川沿い、沼などに自生し、過湿地で森林を形成する数少ない樹種です。水田の畔などに植えられることも多く、近年では耕作放棄地への繁殖が目立ちます。一般的な樹木とは異なり、耐水性を備えているため、湿地でも生育可能です。しかし、コウモリガの食害や、草本植物の繁茂状況なども生育に影響を与えることがわかっています。ミドリシジミやハンノキハムシなど、特定の昆虫の食草でもあります。釧路湿原などでは、土砂流入や富栄養化によってハンノキ林が拡大し、他の植生への影響が懸念されています。

ハンノキの分布

東アジアに広く分布し、千島列島から台湾、中国大陸南部にかけて見られます。

ハンノキと人間の関わり

木材としての利用

ハンノキは、根腐れや風倒木が起こりやすい水田地帯でも生育するため、古くから薪炭材や木工用として利用されてきました。気乾比重は約0.5と軽く、辺材と心材の区別は不明瞭です。家具や器具、稲のはざ掛け用の支柱などに使われ、良質な木炭の材料としても重宝されました。北陸地方では火葬の薪にも用いられた記録があります。また、葉には根粒菌から得た窒素が多く含まれており、落葉による肥料効果も期待できます。

防災・風致

挿し木で容易に発根することから、土石流跡地や斜面崩壊地の復旧にも利用されます。しかし、ハンノキの種類によって萌芽能力などに違いがあるため、適切な種を選ぶ必要があります。公園の池のそばなどに植えられることも多く、ワサビ田では遮光用として利用された例もあります。

薬用

樹皮や果実は褐色の染料として用いられ、抗菌作用や消臭効果も期待されています。また、造血作用のある成分が含まれるため、漢方薬としても利用されてきました。

花粉症

ハンノキの花粉は風媒花であり、花粉症の原因物質の一つとして知られています。スギに比べて飛散量は少ないものの、抗体陽性率は高いという報告があります。カバノキ科植物の花粉症では、果物アレルギーとの関連も指摘されています。

ハンノキの分類

ハンノキにはいくつかの品種や変種が存在します。代表的なものとして、エゾハンノキ、ケハンノキ、タイワンハンノキなどが挙げられます。また、カワラハンノキ、ヤマハンノキ、ケヤマハンノキ、ミヤマハンノキなど、近縁種も存在します。これらの種は生育環境によって異なる特徴を示します。

参考文献

（本文中に挙げられた参考文献リストは省略）

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