オトラント海峡

オトラント海峡は、イタリア半島の東南端に突き出すサレント半島と、ギリシャ北西岸に位置するコルフ島との間に広がる海峡です。この海峡は、地中海の一部であるイオニア海と、そのさらに北に続く細長い内海であるアドリア海とを接続しており、両海域の境界としての役割を担っています。最も狭まっている地点における海峡の幅はおよそ85キロメートルです。海峡の名称は、イタリア側の沿岸に位置する、歴史ある港町オトラントに由来しています。

オトラント海峡は、その地理的な位置が示すように、古来より極めて重要な戦略的地点であり続けてきました。海上交通の要衝であることはもちろん、しばしば軍事的な行動の舞台ともなりました。

古代において、この海峡は東西を結ぶ主要な通路の一つとして利用されました。広大な版図を誇ったローマ帝国の交通網の一部として、人や物資がイタリア半島とバルカン半島の間を移動する上で不可欠なルートであったと考えられています。

中世後半からルネッサンス期にかけて、ヴェネツィア共和国が地中海貿易において圧倒的な海上勢力を築くと、オトラント海峡の重要性はさらに増大しました。ラグーナ（潟）の上に築かれた都市であるヴェネツィアは、アドリア海の最も奥深くに位置しており、外洋、すなわちイオニア海や地中海本域へのアクセスはこの海峡を通じていました。そのため、この海峡はヴェネツィアにとって、自国の海域を防衛し、広範な海洋貿易ルートを確保するための天然の要害であると同時に、アドリア海への出入り口をコントロールする戦略上の生命線でした。強力なヴェネツィア海軍にとって、オトラント海峡を確実に支配下に置くことは、通商の安全と自国の安全保障上、最優先事項の一つでした。逆に、オスマン帝国などの敵対勢力にこの海峡が封鎖されるような事態は、ヴェネツィアの海上活動を完全に停止させ、その経済と安全保障に壊滅的な打撃を与える可能性を秘めていました。このため、ヴェネツィアはこの海峡周辺の制海権維持に多大な努力を払い、必要とあれば軍事行動も辞さない構えでした。

近代においても、オトラント海峡は国際的な紛争において重要な役割を果たしました。第一次世界大戦中、アドリア海はオーストリア＝ハンガリー帝国海軍の主要な活動範囲となり、特にその強力な潜水艦部隊が、連合国側の輸送船や軍艦に大きな被害をもたらしました。連合国（主にイギリス、フランス、イタリア）は、これらの潜水艦の脅威に対抗するため、広大ではあるものの比較的水深の浅いアドリア海奥深くでの大規模な作戦行動を困難と判断し、代わりにオトラント海峡を封鎖する大規模な作戦を実行しました。これは歴史的に「オトラント海峡封鎖」として知られています。この作戦の目的は、潜水艦をはじめとする敵艦艇がアドリア海から地中海本域へ自由に出入りするのを物理的に阻止することでした。この封鎖線は機雷原や対潜ネット、哨戒艦艇によって構築され、戦況に一定の影響を与えました。

第二次世界大戦が始まる直前の1939年には、イタリアが隣国アルバニアへ軍事進攻を行う際に、この海峡を渡って部隊を展開しました。これは、当時のイタリアのファシスト政権がバルカン半島における自国の影響力拡大を目指した動きの一部でした。

冷戦が終結し、東西間の緊張が緩和された後も、この海峡は新たな人の移動の舞台となりました。1990年代初頭、特に1991年以降、経済的な困難や旧共産主義体制崩壊後の政治的・社会的な混乱を抱えていたアルバニアから、より良い生活や機会を求めて多くの人々がイタリアへの脱出を試みました。その際、地理的に最も近距離で到達可能なイタリア南東部へのルートとして、オトラント海峡は、アルバニアからの難民や不法移民が危険を冒してアドリア海を渡り、イタリアを目指す主要なルートの一つとなったのです。

このように、オトラント海峡は、古来より単なる地理的な境界であるだけでなく、文化、経済、そして軍事的な力が常に交錯する動的な空間であり続けてきました。単に二つの海を隔てる水路という以上に、歴史の様々な局面において、人々の営みや国家の戦略に深く関わる重要な地点としての役割を果たしてきたのです。

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