オフサイド (サッカー)

サッカーにおけるオフサイド

サッカー競技において、攻撃側の選手の位置取りに関する重要なルールの一つが「オフサイド」です。これは国際サッカー評議会（IFAB）によって定められる競技規則の第11条に詳細が規定されており、試合の流れや戦術に大きな影響を与えています。

オフサイドが成立する条件

まず、オフサイドの反則が成立するためには、「オフサイドポジション」にいることが前提となります。しかし、オフサイドポジションにいること自体は、直ちに反則となるわけではありません。反則は、味方からパスが出された瞬間にその選手がオフサイドポジションに位置し、かつプレーに「関与」した場合にのみ適用されます。

オフサイドポジションとは

オフサイドポジションは、以下の三つの条件を全て満たした位置です。

1. 相手のフィールドでプレーしている：自陣にいる場合はオフサイドポジションになりません。
2. ボールより前方にいる：味方が出したパスよりも、相手ゴールに近い位置にいます。
3. 相手ゴールラインから数えて、最後から2人目の守備側選手よりもゴールに近い位置にいる：通常、最後尾にはゴールキーパーがいますが、それ以外のフィールドプレイヤーがゴールキーパーより自陣側にいる場合、その選手が「最後から2人目の守備側選手」となります。つまり、攻撃側の選手と相手ゴールラインの間に、相手選手が一人しかいない状態です。手や腕を除く、体のどの部分がこの位置にあるかで判断されます。

オフサイドポジションであるかどうかの基準は、味方からパスが出されたまさにその瞬間の選手の位置です。パスを受けた時にオフサイドポジションにいたとしても、パスが出された瞬間にオンサイド（オフサイドではない位置）にいれば反則にはなりません。

プレーへの「関与」

オフサイドポジションにいた選手が、以下のいずれかの形でプレーに影響を与えた場合にオフサイドの反則となります。

ボールに触れる：味方が出したボールを直接プレーします。
相手のプレーを妨害する：ボールに関わろうとする相手選手の邪魔をしたり、ゴールキーパーの視線を遮ったりするなど、相手のプレーに影響を与えます。
ポジションによって利益を得る：ゴールポストやクロスバー、他の選手に当たって跳ね返ってきたボールをプレーするなど、オフサイドポジションにいたことで有利な状況からプレーします。

オフサイドが適用されないケース

オフサイドポジションにいても、以下の状況では反則になりません。

特定のプレーからのボールを直接受ける：スローイン、ゴールキック、コーナーキックからのボールを直接受けた場合。
* 守備側選手が意図的にプレーしたボール：守備側の選手がパスミスやクリアミスなど、意図的にボールに触れた後、オフサイドポジションにいた選手がそのボールをプレーした場合（ただし、ゴールキーパーがシュートを弾いた場合や、守備側選手がシュートをブロックしようとして触れた場合などは除きます）。

試合中の判定と役割

オフサイドを含む全ての反則の最終的な判定は主審が行いますが、オフサイドに関しては副審の役割が非常に重要です。副審はタッチライン沿いを移動しながら「オフサイドライン」（通常は守備側の最終ライン）と攻撃側の選手の位置を常に監視しています。

副審がオフサイドの反則があったと判断した場合、旗を真上に上げて主審に合図を送ります。主審がその合図を見て笛を吹き、オフサイドの反則を宣告した場合、副審はさらに旗の向きを変えて反則があったフィールド上の位置（中央付近、手前側、奥側）を示します。

ただし、主審が副審の合図と異なる判断を下すこともあります。例えば、守備側が速攻に移ろうとしている場面で、プレーを止めると攻撃側に不利益が生じると判断した場合などです。このような場合は、副審が旗を上げていても主審はプレー続行を示すジェスチャー（プレーオン）を送り、副審に旗を下ろすよう指示します。

近年、VAR（ビデオ・アシスタント・レフェリー）が導入されている試合では、「オフサイドディレイ」という運用が一般的になっています。これは、オフサイドの可能性があっても、直後に決定的な得点機会がありそうな場合は副審がすぐに旗を上げず、プレーが終わってから判断をVARに委ねる、あるいは改めて旗を上げるというものです。これにより、微妙な判定で得点の機会を不当に奪うことを避けています。

罰則

オフサイドの反則が成立した場合、相手チームに対して、反則を犯したオフサイドポジションの選手がいた場所から「間接フリーキック」が与えられます。

オフサイドと戦術

広いフィールドを10人のフィールドプレイヤーで守備するサッカーにおいて、オフサイドのルールは守備側が使えるスペースを制限する上で極めて重要です。守備陣が高い位置でオフサイドラインを設定することで、相手攻撃陣がプレーできる範囲を狭め、ボールを奪われた際にも素早く相手にプレッシャーをかけることが可能になります。現代サッカーで主流となっている攻撃的なプレッシング戦術は、オフサイド・ルールを前提として成り立っています。

守備側の代表的な戦術としては、「オフサイド・トラップ」があります。これは、守備ライン全体が連携して一斉に前方に動き出し、相手攻撃選手を意図的にオフサイドポジションに取り残すことで、パスが出された瞬間にオフサイドの反則を誘発する戦術です。

一方、攻撃側は、このオフサイドラインを見極めることが重要です。オフサイドにならない位置からタイミングよく守備ラインの裏へ走り込み、味方からのパスを受けることで、相手ゴール前への大きなチャンスを作り出します。このようなパスは「スルーパス」と呼ばれ、オフサイドラインを突破する攻撃の鍵となります。

オフサイドの歴史

オフサイドの概念は、19世紀にイングランドでフットボールが誕生した頃から存在していました。当時のルールはパブリック・スクールごとに異なっていましたが、統一ルールを目指して1863年に設立されたフットボール・アソシエーション（FA）が、「ケンブリッジ・ルール」を基に最初の競技規則を制定しました。

初期のルール（1863年）では、ボールよりも相手ゴールに近い位置にいる選手は全て「アウト・オブ・プレー」とされ、プレーに関与することができませんでした。これは現在のラグビーにおけるオフサイドとほぼ同じで、ボールより前にパスを出すことが許されていませんでした。この時代のサッカーは、現在のラグビーのように選手が密集して前進する形が一般的で、フォーメーションも「0-0-10」のように攻撃的な選手が偏ったものでした。

ルールはその後改定され、1866年には「3人制オフサイド」が導入されました。これは、パスを受ける攻撃側の選手と相手ゴールラインの間に、ゴールキーパーを含めて相手選手が3人いれば、ボールより前にパスを出しても良いというものでした。これにより、サッカーは前にパスをつないで展開するスポーツへと進化し、ラグビーとの大きな差異が生まれました。また、守備専門の選手である「バックス」が誕生し、フォーメーションも「2-0-8」のように変化が見られました。

さらに1925年には、オフサイドの条件となる相手選手の人数が3人から2人に減らされ、「2人制オフサイド」となりました。これが現在のオフサイドのルールの基礎となっています。

オフサイド廃止論

サッカーにおけるオフサイドのルールについては、長い歴史の中で度々見直しが行われてきましたが、近年ではその「廃止」を求める意見も一部のフットボール関係者から聞かれます。これは、サッカーの試合で得点が少なく、ボール回しなどが多く見られる冗長な展開がある一方で、オフサイドによってチャンスが潰されることが多い現状への疑問から生じています。

元オランダ代表の名選手であるマルコ・ファン・バステン氏などが廃止論を唱えており、オフサイドがなくなればより魅力的な攻撃的なサッカーになると主張しています。廃止反対派からは、オフサイドがなくなるとロングボールばかりの単調なサッカーになるとの懸念も示されていますが、ファン・バステン氏は、厳しいプレッシャーの中で正確なロングパスを供給することの難しさを指摘し、そうはならないだろうと反論しています。

オフサイドに関する議論は、実はサッカーの歴史の初期、FAが設立されルールが統一されていく過程で、前にパスを許容するか否かで意見が分かれ、最終的に現在のラグビーとサッカーが異なるルール体系を持つに至った、そのルーツにまで遡ることができます。

オフサイドは、サッカーの戦術や試合展開の根幹に関わる複雑ながらも奥深いルールであり、その存在意義や将来像についても常に議論の対象となっています。
の対象となっています。（文字数調整のため、一部省略）

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