オベイシュ

オベイシュ：ヨーロッパで初めて飼育されたカバ

1850年、ロンドン動物園に一頭のオスのカバがやってきました。その名もオベイシュ。彼は、古代ローマ時代以来、ヨーロッパで初めて飼育されたカバとして、大きな注目を集めました。生後間もない頃に捕獲され、はるばるエジプトから海路を経てロンドンへと運ばれてきたのです。

オベイシュの来園：1500年ぶりのカバ

ロンドン動物園が開園したのは1828年。オベイシュが到着するまでには22年もの歳月が流れていました。ロンドン動物学会は、古代ローマ時代の記録を参考に、ナイル川流域でのカバの入手計画に着手。当時カイロに駐在していたイギリス総領事の尽力もあり、エジプト総督の協力を得て、白ナイル川で生後3日ほどの仔カバの捕獲に成功したのです。この仔カバは、捕獲された場所の地名にちなんで「オベイシュ」と名付けられました。

海路と陸路の旅

オベイシュはカイロで越冬し、特別に作られた水槽で牛乳を飲んで育ちました。毎日33リットルもの牛乳を消費したため、カイロでは一時的に牛乳不足になったという逸話も残っています。その後、蒸気船「ライポン号」でイギリスへ。サウサンプトンに到着後は特別列車に乗り換え、ロンドン動物園へと到着しました。この間、オベイシュは飼育係になついており、健康で穏やかな様子だったと伝えられています。

ロンドン市民を魅了したカバ

オベイシュの到着は、ロンドン市民を熱狂させました。ロンドン動物園の入園者数は急増し、財政難に苦しんでいた動物園にとって、オベイシュはまさに救世主的存在だったと言えるでしょう。彼の登場を祝って作られた「カバのポルカ」という楽曲も存在したそうです。

家族と仲間

1853年、オベイシュにメスのカバ「アドヘラ」が仲間入りしました。アッバース・パシャからの贈り物です。オベイシュとアドヘラの間には3頭の子カバが生まれましたが、生き残ったのは3番目に生まれたメス「ガイ・フォークス」ただ1頭でした。

長寿と死

オベイシュはロンドン動物園で27年9か月もの間を過ごし、1878年3月11日に亡くなりました。彼の死はタイムズ紙でも大きく報じられ、多くの人々がその死を悼みました。アドヘラもオベイシュの死後4年後に亡くなり、オベイシュの血統は途絶えました。

忘れられない脱走事件

オベイシュは一度、飼育係が不在の隙に小屋から脱走したことがあります。園長は様々な工夫を凝らして、オベイシュを捕獲しました。その際、オベイシュは飼育係のスコット氏を執拗に追いかけ回し、その様子は、まるで追いかけっこをしているかのようだったと言われています。この脱走事件は、オベイシュの意外な一面を垣間見せてくれるエピソードです。オベイシュは、多くの人の記憶に長く残る、特別なカバだったと言えるでしょう。

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