オリバー・ロッジ

サー・オリバー・ロッジ：物理学者と心霊研究家の生涯

サー・オリバー・ロッジ（1851年-1940年）は、イギリスを代表する物理学者でありながら、同時に心霊現象研究でも知られた、特異な経歴を持つ人物です。無線電信の初期において重要な役割を果たしたコヒーラの発明者であり、点火プラグの発明者としてもその名を残しています。また、エーテルに関する研究にも深く関わっていました。

ロッジは、ストーク＝オン＝トレントに生まれ、ロンドン大学で科学を学んだ後、リヴァプール大学、そしてバーミンガム大学で教鞭を執りました。1887年には王立協会フェローに選出され、その学術的な業績は高く評価されています。しかし、彼の興味は物理学にとどまりませんでした。

物理学と心霊現象研究：相反する二つの世界

ロッジは、卓越した物理学者であると同時に、心霊現象研究の第一人者でもありました。彼は、目に見えない霊的世界の実在を確信しており、物質世界をエーテルの凝結したものと捉え、その背後にある超越的な意識の存在を信じていました。彼の著作は20冊を超え、その多くが霊的世界と物質世界の関係性、そして宇宙における人間の位置づけについて論じています。

彼の哲学は、東洋思想、特に仏教の「色即是空」に通じるものがあり、物質界の儚さと霊的世界の永遠性を対比的に表現しています。長年、霊的世界の探求を続け、科学的探究を通して、特定の宗教とは異なる独自の宗教観を深めていきました。

息子との交霊と『レイモンド』

ロッジは、若くして亡くなった息子レイモンドとの交霊体験を記録した『レイモンド』を著しました。この作品は、日本でも大正時代に翻訳され、川端康成をはじめ多くの文人に影響を与えたと言われています。この本は、単なる心霊体験の記録ではなく、死後の世界へのロッジ自身の深い信念と、息子への深い愛が凝縮された作品です。

法廷での証言と独特の死生観

心霊現象に関する詐欺事件の裁判で証人として法廷に立った際に、ロッジは「霊の世界」を幻覚とみなす意見に対して、「この世こそが幻影であり、真実は目に見えない世界にある」と反論しました。

1929年の著書「まぼろしの壁」では、死後の世界への疑問を、地上での生命の存在自体が奇跡であるという視点から考察しています。彼は、死を悲観的に捉えるのではなく、地上生活こそが真の冒険であり、死後の世界への移行を楽しみな冒険と表現しました。

主な受賞歴と著作

ロッジは、ランフォード・メダル、アルバート・メダル、ファラデー・メダルなど、数々の栄誉ある賞を受賞しています。彼の著作は数多く翻訳され、日本においても広く読まれました。『宗教問答』『死後の生存』『心霊生活』など、多様なテーマを扱った彼の著作は、現代においても、科学と宗教、物質と精神の関わりについて考える上で、重要な示唆を与え続けています。

ロッジの生涯と業績は、科学と心霊現象研究という一見相反する分野を繋ぎ、物質世界と精神世界の両面を探求した、稀有な存在であったことを示しています。彼の著作は、科学と宗教、そして死生観に関する多角的な考察を促す、貴重な資料であり続けています。

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