オリビア・オン

シンガポール出身の女性歌手、オリビア・オン（Olivia Ong、中国語名：王俪婷）。1985年 10月2日にこの世に生を受けた彼女は、その透き通るような歌声と多様な音楽性で、アジアを中心に多くのファンを魅了しています。名字の「王」が「Ong」と発音されるのは、シンガポール華人の間で話される閩南語（福建語）に由来するとされています。

幼少期、オリビアは音楽に強い関心を抱きます。6歳から7歳にかけて、アメリカの歌姫マライア・キャリーの歌声に憧れを抱き、また香港の著名な歌手である王菲（フェイ・ウォン）の楽曲を通して中国語の歌にも興味を持つようになります。これらの経験が、後の彼女の音楽活動の礎となります。

キャリアの始まりは、1999年にシンガポールで結成された3人組ガールズユニット、MIRAIへの加入でした。アジア各国で活動していたMIRAIは、2001年に日本への本格進出を計画しますが、メンバーの一人が脱退します。その欠員を補うためのオーディションで、当時15歳だったオリビアが選ばれました。シンガポールに本社を置くレーベルS2S（創設者は日本人）の日本法人であるS2S Japanと契約を結んだオリビアは、MIRAIの一員として歌手デビューを果たします。同年7月、MIRAIは日本国内でのみ、ミニアルバム『Pink』と『Blue』を同時にリリース。これがオリビアにとって初めてのCD作品となりました。しかし、彼女が加入して2年足らずでMIRAIは解散。オリビアは歌手活動を続けることを会社に伝えます。

2003年、17歳から18歳の頃、オリビアは単身日本へと渡ります。約3ヶ月間の日本語学習を経て、インターナショナル・スクールに通いながらソロ活動を開始しました。この時期、日本のダンスミュージック系DJユニット、GTSと協業する機会を得て、彼らのアルバムにボーカリストとして参加しています。2004年 11月には、埼玉スタジアムで行われたサッカーのワールドカップ・アジア予選、日本対シンガポール戦において、6万人もの観客の前でシンガポール国歌を歌唱するという貴重な経験をしました。

2005年、19歳を迎えたオリビアは、S2S Japan内のレーベルIncenseから、カバーアルバム『A Girl Meets Bossa Nova』をリリースし、ソロアーティストとして正式にデビューを飾ります。交流のあったGTSのプロデュースにより、翌年にかけてダンスナンバーを中心としたオリジナルアルバム『Precious Stones』と『Tamarillo』をVoicellar Recordsから発表。さらに、2007年までに『A Girl Meets Bossa Nova 2』、そしてS2Sシンガポールからリリースされた中国語カバー曲を含む『Fall In Love With Olivia』といったアルバムが続々と登場しました。日本での活動期間中に公式に発表されたアルバムは、これらの5作品となります。しかし、2007年末にS2Sとの契約期間が終了し、シンガポールへ帰国。後にオリビアは、日本の生活や芸能界には、日本食以外は馴染めなかったと述懐しています。契約終了後も、S2Sからは既存曲で構成された企画盤やベストアルバムが2008年までにリリースされました。

シンガポールへ帰国後、オリビアは自身のバンドを結成し、2008年 3月にはシンガポールで開催されたMOSAIC Music Festivalに出演します。この頃、シンガポール国内の著名なアーティストたち（林俊傑、蔡健雅、孫燕姿など）の音楽に触れることで、中国語での歌唱に強い関心を持つようになります。同年、台湾の大手音楽レーベル、華研国際音楽（HIM International Music）と契約を締結し、活動の拠点を台湾へと移しました。

台湾へ渡ってから初めて発表された作品は、シンガポールドラマ『小娘惹』の主題歌として使用された「如燕（ツバメのように）」のシングル曲でした。これはシンガポールでのインターネット配信限定リリースでしたが、彼女にとって初の中国語オリジナル楽曲となりました。2010年 3月、華研国際音楽から「シンガポールから来た日本の輝き」というキャッチコピーと共に、オリジナル曲を含むカバーアルバム『Olivia』がリリースされます。このアルバムは台湾のG-music洋楽売り上げチャートで連続30週ランクインするという記録的なヒットを飛ばしました。同年8月には、ライブアルバム『夏夜晚風Live影音專輯』のCD+DVDセットが発売され、前作と並行してチャートインを続けるなど、台湾での人気を不動のものとしました。

音楽活動に加え、オリビアは俳優としても活動の場を広げます。2010年にはシンガポール映画『すばらしき大世界（原題:大世界）』に出演し、物語の序章と終章部分で主人公を演じました。この映画は翌年にシンガポールで、そして2011年9月には福岡国際映画祭で日本でも公開されています。また、2012年には台湾の旅行会社による短編映画『Shalom的旅程』に主演。2015年にはシンガポールのテレビドラマ『起飛 -Crescendo-』に歌手役で出演しています。

2012年 9月8日、オリビアは台北市で自身初となる大型ソロコンサート『Olivia愛的羅曼史演唱会』を開催しました。このコンサートでは、自身のオリジナル曲はもちろんのこと、台湾のテレサ・テンや張恵妹、アメリカのテイラー・スウィフト、日本の椎名林檎といった多様なジャンルのアーティストの楽曲を、中国語、英語、日本語の三ヶ国語を駆使して披露し、その卓越した歌唱力と表現力で観客を魅了しました。さらに、2013年 11月28日には、東京のNHKホールで行われた「日・ASEAN音楽祭～災害復興への祈り～」にシンガポール代表の一人として参加し、ディック・リー作曲の「You And Me」を歌唱しました。この模様は日本のNHK総合テレビなどで放送され、日本でも再び注目を集めました。

近年は、母国シンガポールを拠点としつつ、アジア各地で精力的に活動を続けています。そのキャリアを通じて、ボサノヴァ、ジャズ、ダンスミュージック、そして中国語ポップスと、ジャンルを超えた音楽を探求し続けるオリビア・オンは、国際的な活躍を見せるシンガポールを代表するアーティストの一人と言えるでしょう。他のアーティストのアルバムへの参加や、CMへの出演なども多数手掛けており、その活動の幅は広がり続けています。

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