オリンピック公開競技

オリンピック公開競技：近代オリンピックにおける実験の舞台

近代オリンピックの歴史において、正式種目として採用される前の競技や、開催地独自の競技を一時的に実施する制度がありました。それが「公開競技」です。1912年のストックホルムオリンピックでアイスランド式レスリングのグリマが公開競技として実施されたことが、その始まりでした。

公開競技は、将来の正式種目候補や、開催地で盛んな競技をオリンピックの舞台で試行的に行う場として機能しました。そのため、オリンピックの開催地で根強い人気を誇る競技や、国際的な普及を目指している競技が選ばれる傾向がありました。

公開競技の選定基準は時代とともに変化しました。初期は比較的自由でしたが、1983年以降は、IOC承認[[国際競技連盟連合]]（ARISF）、夏季オリンピック国際競技連盟連合（ASOIF）、冬季オリンピック国際競技連盟連合（AIOWF）のいずれかに加盟する国際競技連盟（IF）の競技に限定されました。1983年から1987年のオリンピック憲章では、開催地大会組織委員会がIOCの認可を得て、IOC承認競技から2競技まで公開競技として実施できると規定されました。しかし、1988年のカルガリーオリンピックとソウルオリンピック、そして1992年のバルセロナオリンピックでは、この規定を超える数の公開競技が行われました。

公開競技で実施された競技の中には、後に正式種目に昇格したものもあります。野球（1984年ロサンゼルスオリンピック）やテコンドー（1988年ソウルオリンピック）はその代表的な例です。公開競技で授与されたメダルは、正式競技のメダルとデザインは同じでしたが、サイズは小さく、公式記録には含まれませんでした。

しかし、オリンピックの規模拡大への懸念から、1990年のオリンピック憲章で公開競技制度は廃止されました。1992年のアルベールビルオリンピックとバルセロナオリンピックで公開競技が行われたのが最後となり、1996年のアトランタオリンピック以降は実施されていません。

2020年の東京オリンピックからは、開催地大会組織委員会が提案する追加種目が実施されるようになりました。この追加種目は、公開競技とはいくつかの点で異なります。まず、収入の配分がIFに行われないこと、オリンピック憲章における種目数制限の対象外であることなどが挙げられます。また、追加種目は正式競技として扱われ、メダル獲得数は公式記録に加算されます。公開競技には最多2大会連続実施という制限がありましたが、追加種目にはそのような制限がありません。さらに、公開競技では正式競技IFの種目も実施されることがありましたが、東京オリンピックの追加種目選考では正式競技IFの種目は除外され、ARISF加盟IFの種目に限定されました。

公開競技が行われなかった2008年北京オリンピックでは、武術太極拳の国際大会が同時開催されました。これは、公開競技や追加種目の制度がない時期に、開催地独自の競技イベントが開催された一例です。

公開競技は、近代オリンピックの歴史における重要な制度でした。新たな競技の発展やオリンピックの多様化に貢献した一方で、大会の規模拡大という問題点も孕んでいました。公開競技制度の廃止は、オリンピックの運営における効率性や管理の必要性を反映した結果と言えるでしょう。公開競技は過去のものとなりましたが、その歴史は、オリンピックの進化と変遷を知る上で貴重なものです。

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