オリーヴ山上のキリスト

オリーヴ山上のキリスト 作品85

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1803年に作曲したオラトリオ『オリーヴ山上のキリスト』作品85は、エルサレム近郊のオリーヴ山上で、イエス・キリストが神に祈りを捧げた後に捕縛されるという、受難前夜の出来事を音楽で描いた作品です。別称として『かんらん山上のキリスト』とも呼ばれます。

作曲の背景

このオラトリオがどのような経緯で作曲されたのか、その詳細はあまり明らかになっていません。しかし、1803年の3月頃に着手されたとみられ、非常に速いペースで書き上げられたことが知られています。ベートーヴェン自身が、完成までわずか2週間ほどだったと述懐した書簡も残されています。作品のテキストは、聖書から直接引用されたものではなく、当時ウィーンで名の知られていた詩人フランツ・クサヴァー・フーバーとの共同作業によって作り上げられました。

初演と評価

作品は作曲された年と同じ1803年の4月5日、ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で初演されました。この演奏会は、ベートーヴェン自身の新作披露の場として開催され、同時に彼の交響曲第1番や第2番、ピアノ協奏曲第3番も初演されました。この夜のプログラムの中でも、『オリーヴ山上のキリスト』は特に聴衆の大きな支持を得て、成功を収めました。

しかしながら、全ての批評家から好意的に受け止められたわけではありませんでした。一部には、楽曲の形式が複雑すぎることや、歌唱パートの表現力が不足しているといった批判も存在しました。当時の文献には、美しい部分は認めつつも、全体としては長すぎ、構成も不自然で、特に歌唱パートに表現力が欠けるといった厳しい意見が見られます。ベートーヴェン自身も、キリストの声部をオペラ風に扱ったことについて、後になって適切ではなかったと反省していたという証言も残されています。

改訂とその後

初演での様々な反応を受けて、ベートーヴェンはこの作品に改訂を加えました。1804年に行われたこの改訂を経て、1811年10月にはブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版されました。初演後も何度か再演されており、1825年の演奏会はベートーヴェンの会話帳に「満員の盛況」と記されていることから、一時期は広く受け入れられていたことが分かります。それでも、現代においてこのオラトリオが演奏される機会は、ベートーヴェンの他の主要作品に比べると極めて稀です。

楽曲詳細

このオラトリオは、管弦楽、独唱、そして合唱によって演奏されます。オーケストラの編成は、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットがそれぞれ2本、ホルンとトランペットがそれぞれ2本、トロンボーンが3本、ティンパニ、そして標準的な弦楽五部で構成されています。声楽パートとしては、天使役のソプラノ、イエス役のテノール、ペトロ役のバスによる独唱に加え、混声四部合唱が用いられます。

楽曲全体の構成は6つの主要な部分から成りますが、より細かく分けると15の部分に分類することもできます。全曲の演奏に要する時間は約60分程度です。各部分は、序奏、レチタティーヴォ、アリア、二重唱、三重唱、合唱などが組み合わされており、キリストの受難へ至るドラマティックな展開を音楽で追体験できます。

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