オルガン協奏曲 (バッハ)

オルガン 協奏曲（バッハ編曲）

ヨハン・ゼバスティアン・バッハが作曲したとされる「オルガン協奏曲」は、彼の膨大な鍵盤楽曲の中でも特異な位置を占める作品群です。これは、バッハ自身がオルガンと管弦楽のために新たに作曲した協奏曲ではなく、既存の他者による協奏曲を、オルガン単独で演奏できるように編曲した独奏作品であり、全6曲が現存しています。

成立の背景

これらの作品は、バッハが1708年にヴァイマルの宮廷オルガニストとして就職し、1714年には宮廷楽長に任じられた時期に深く関わっています。ヴァイマルの宮廷は、当時の他の多くのドイツの宮廷と同様に、イタリア音楽を熱心に受容し、愛好していました。バッハはこの環境下で、時代の先端を行くイタリア音楽、特に器楽協奏曲の様式に強い関心を示し、その研究に没頭します。彼はイタリア協奏曲が持つしなやかで優美な音楽語法に魅了されるとともに、ヴァイオリンをはじめとする旋律楽器の表現技法が、オルガンのような鍵盤楽器のイディオムと驚くほど近い親和性を持っていることに気づきました。

こうした研究と発見から、バッハは大胆な着想を得ます。それは、優れたイタリアの器楽協奏曲を、オルガン一台で演奏可能な独奏曲として再構築するという試みでした。このユニークな創意から生まれた成果こそが、今日「オルガン協奏曲」として知られる6曲の編曲作品です。これらの原曲は、第1番と第4番がザクセン＝ヴァイマル公国の公子、ヨハン・エルンストの作品であり、第2番、第3番、第5番がアントニオ・ヴィヴァルディの有名な協奏曲から採られています。

ここで原曲の作曲者の一人であるヨハン・エルンスト（1696年 - 1715年）について補足しておきましょう。彼はザクセン＝ヴァイマル公ヴィルヘルム・エルンストの甥にあたり、わずか18歳で夭逝した人物ですが、少年時代から類稀なる音楽の才能を示し、「天才貴公子」として讃えられました。その才能はゲオルク・フィリップ・テレマンが自作を献呈するほど高く評価されていました。

各曲の概要

第1番ト長調 BWV 592

ヨハン・エルンストの協奏曲に基づく編曲作品です。原曲の特徴を受け継ぎ、多様なリズムや明るい旋律が印象的で、ヴィヴァルディを思わせる快活な魅力を湛えています。3つの楽章で構成されます。

- 第1楽章（アレグロ）
- 第2楽章グラーヴェ
- 第3楽章プレスト

第2番イ短調 BWV 593

アントニオ・ヴィヴァルディ作曲の「調和の霊感」作品3より、第8番「2つのヴァイオリンのための協奏曲イ短調」を原曲としています。バッハは原曲におけるヴァイオリンの情熱的な技巧を、オルガンへと巧みに移し替えています。楽章構成は3楽章です。

- 第1楽章（アレグロ）
- 第2楽章アダージョ
- 第3楽章アレグロ

第3番ハ長調 BWV 594

この曲の原曲は、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「ムガール大帝」（RV 208、またはその異稿RV 208a）です。こちらも3つの楽章から成る編曲作品です。

- 第1楽章（アレグロ）
- 第2楽章レチタティーヴォ（アダージョ）
- 第3楽章アレグロ

第4番ハ長調 BWV 595

ヨハン・エルンストの作品を原曲とした編曲です。他の曲と異なり、単一の楽章で構成されているのが特徴です。独奏部分と全体（トゥッティ）の対比が非常に鮮やかに表現されています。

- （速度指定なし）

第5番ニ短調 BWV 596

ヴィヴァルディの「調和の霊感」作品3より、第11番（2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲ニ短調）を原曲としています。かつてはバッハの長男であるヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの作品ではないかと考えられていましたが、その後の研究でヨハン・ゼバスティアン・バッハ自身の真作であることが確定しました。4つの楽章を持ちます。

- 第1楽章（アレグロ―グラーヴェ）
- 第2楽章フーガ
- 第3楽章ラルゴ
- 第4楽章フィナーレ（アレグロ）

第6番変ホ長調 BWV 597

この作品については、原曲となった作品が特定されておらず、さらに後世の偽作である可能性も指摘されています。2つの楽章から構成されています。

- 第1楽章（速度指定なし）
- 第2楽章ジーグ

オルガン協奏曲 (バッハ)