オルガン協奏曲集作品7 (ヘンデル)

ヘンデル：オルガン協奏曲集 作品7

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルが作曲した『オルガン協奏曲集』作品7（HWV 306-311）は、彼のオルガン協奏曲における後期を代表する重要な作品群です。1740年から1751年頃にかけて作曲・初演され、ヘンデルの死後、1761年にまとめて出版されました。全6曲で構成されており、ヘンデルのオルガン協奏曲としては第3集にあたります。

出版の背景

ヘンデル作品の主要な出版元であったロンドンのジョン・ウォルシュ子息は、すでに1738年にオルガン協奏曲集作品4（第1集）を、1740年には作品番号のない第2集を刊行していました。1760年に改めてヘンデル作品の出版権を得たウォルシュは、これらの既刊集以降に作曲されていたオルガン協奏曲を収集し、翌1761年に本作を世に送り出しました。これが『オルガン協奏曲集』作品7、すなわち第3集です。

音楽的な特徴と楽譜の問題

ヘンデルのオルガン協奏曲は、彼のオラトリオ初演における幕間などで自身がオルガンを演奏するために書かれたものが多く、その演奏にはヘンデル本人の即興が重要な要素を占めていました。そのため、楽譜上ではしばしば楽章全体が「organo ad libitum」（オルガンは自由に）と指示されており、具体的な譜面が記されていない箇所が少なくありません。

ヘンデル存命中に編纂・出版された作品4や第2集と異なり、没後にジョン・ウォルシュによってまとめられた作品7では、楽譜のままでは演奏できないほど不完全な部分が散見されるという問題があります。これは、ヘンデル自身による即興部分が譜面化されずに残されたことなどが原因と考えられ、現代の演奏家がこれらの作品を演奏する際には、これらの「ad libitum」箇所をどのように補うかが課題となっています。

通し番号

19世紀に刊行されたヘンデル旧全集（Handel-Gesellschaft, HG）では、校訂者のマックス・ザイフェルト（Max Seiffert）がヘンデルのオルガン協奏曲全体に通し番号を付与しました。この際、作品7の6曲は作品4に続く第7番から第12番として整理されました。現在でも、この通し番号（第7番～第12番）で作品7の各曲が参照されることが一般的です。

編成

本作品集における管弦楽の編成は、通常、2本のオーボエ、2本のファゴット（任意）、弦楽器群（ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）、そして通奏低音（チェンバロまたはオルガンなど）で構成されます。

各曲の概要

第1番（第7番）変ロ長調 HWV 306

1740年2月17日に作曲され、同月27日にオラトリオ『快活の人、沈思の人、温和の人』の初演と併せてリンカーンズ・イン・フィールズ劇場で演奏されました。ヘンデルのオルガン協奏曲では珍しく、第1楽章でオルガンペダルを使用する指示があります。第1楽章には、有名なハープシコード組曲第1集第7番（HWV 432）のパッサカリアの旋律が現れます。

第1楽章：Andante (4/4 - 3/4)
第2楽章：Largo, e piano (3/2) - ニ短調
第3楽章：Bourrée (Allegro) (2/2)

第2番（第8番）イ長調 HWV 307

1743年2月5日に作曲され、同月18日にコヴェント・ガーデン劇場でオラトリオ『サムソン』の初演時に演奏されました。第3楽章の楽譜は残されていません。

第1楽章：Ouverture (4/4)
第2楽章：A tempo ordinario (4/4) - フーガ
第3楽章：（楽譜なし）
第4楽章：Allegro (4/4)

第3番（第9番）変ロ長調 HWV 308

1751年1月4日に作曲され、同年3月1日にコヴェント・ガーデン劇場で行われたオラトリオ『アレクサンダーの饗宴』の再演時に演奏されました。第2楽章のアダージョとフーガの楽譜は残されていません。

第1楽章：Allegro (4/4)
第2楽章：Adagio e Fuga（楽譜なし）
第3楽章：Spiritoso (3/4)
第4楽章：Menuet (3/4)

第4番（第10番）ニ短調 HWV 309

作曲・初演の年代は明確ではありませんが、1738年頃の『2つのオルガンのための協奏曲』ニ短調（HWV 303）との類似が指摘されています。第3楽章の楽譜は残されていません。終楽章はヘンデルの他の作品、例えばオペラ『忠実な羊飼い』初稿（HWV 8a）や合奏協奏曲集作品3-6（HWV 317）、ハープシコード組曲ニ短調（HWV 428）などにも使用されています。

第1楽章：Adagio (4/4) - チェロおよびファゴットが分割されています。
第2楽章：Allegro (4/4) - ニ長調
第3楽章：（楽譜なし）
第4楽章：Allegro (3/8)

第5番（第11番）ト短調 HWV 310

1750年1月31日に作曲されました。終楽章のガヴォットは、作品4-3の同楽章を編集した偽作である可能性も指摘されています。第3、第4楽章にはオルガンパートがありません。

第1楽章：Allegro ma non troppo, e staccato (4/4)
第2楽章：Andante larghetto, e staccato (4/4) - 変ロ長調
第3楽章：Menuet (3/4) - オルガンなし
第4楽章：Gavotte (4/4) - オルガンなし

第6番（第12番）変ロ長調 HWV 311

1745年頃に作曲された未完のシンフォニア変ロ長調（HWV 347）を基にしており、1749年に演奏されました。第2楽章の楽譜は残されていません。

第1楽章：Pomposo (3/4)
第2楽章：（楽譜なし）
第3楽章：A tempo ordinario (2/2)

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