オルフィスム

オルフィズム：色彩の交響曲

オルフィズムとは、20世紀初頭のフランスで生まれた絵画の様式です。キュビスムの影響を強く受けつつ、色彩の斬新な表現と抽象性を追求した点に特徴があります。キュビスムが幾何学的な図形を用いて対象を分解・再構築するのに対し、オルフィズムは、その抽象性をさらに推し進め、色彩そのものの力によって独自の表現世界を創造しました。

この運動の名称は、詩人ギョーム・アポリネールによって1912年に命名されました。アポリネールは、オルフィズムの作品が持つ色彩の豊かさを、ギリシャ神話に登場する竪琴の名手オルフェウスの音楽に喩え、その比喩表現が運動の名称の由来となっています。オルフェウスの奏でる音楽のように、オルフィズムの絵画は観る者の心に鮮烈な印象と共鳴を呼び起こすことを目指しました。

オルフィズムの画家たちは、色彩の並置や対比によって、従来の絵画表現では得られなかった、新しい視覚体験を生み出そうと試みました。色彩の相互作用を重視し、画面全体が調和のとれた、あるいは緊張感あふれる色彩の交響曲のように構成されています。抽象的な表現に傾倒する作品も多く、一部の作品は純粋な抽象絵画と見なせるほどにまで進んでいます。ピカソやブラックのキュビスムが一時的に色彩表現を抑制したのに対し、オルフィズムは色彩を積極的に取り入れ、鮮やかで華麗な作品群を生み出しました。

オルフィズムを代表する画家としては、ロベール・ドローネーとその妻ソニア・ドローネー、フランティセック・クプカ、フランシス・ピカビア、マルセル・デュシャン、ジャック・ヴィヨン、フェルナン・レジェなどが挙げられます。特に、ロベール・ドローネーとクプカは、幾何学的な形態と色彩の組み合わせによる抽象表現を極限まで追求した画家として知られています。ドローネーのエッフェル塔を描いた作品は、オルフィズムの代表作の一つとして有名です。

しかし、オルフィズムはキュビスムと明確に区別できる独立した運動であったのかについては、議論があります。オルフィズムに属する画家たちの作品や思想には、必ずしも共通点が見られない点や、キュビスムとの境界が曖昧な点から、オルフィズムを独立した運動として分類することに疑問を持つ声もあります。実際、オルフィズムというジャンル分けが必ずしも明確な意味を持つのかという批判は根強く、キュビスムに吸収されたと見なす見解もあります。

オルフィズムは1914年頃には終焉を迎えたとされています。第一次世界大戦の勃発も、この運動の終焉に影響を与えたと考えられています。しかし、オルフィズムが追求した色彩と抽象性の探求は、後の抽象絵画や現代美術に大きな影響を与え、20世紀美術史における重要な位置を占めることとなりました。オルフィズムは、短い期間に存在した運動ではありましたが、その革新的な試みは、現代美術に深い足跡を残しているのです。

主な画家:

ロベール・ドローネー (Robert Delaunay): エッフェル塔を描いた作品で有名。
ソニア・ドローネー (Sonia Delaunay): ロベール・ドローネーの妻。
フランティセック・クプカ (Frantisek Kupka): 抽象表現を追求した画家。
フランシス・ピカビア (Francis Picabia): キュビスム、ダダイスムにも関わった画家。
マルセル・デュシャン (Marcel Duchamp): レディメイドの作品で知られる画家。
ジャック・ヴィヨン (Jacques Villon): キュビスムの画家。
* フェルナン・レジェ (Fernand Léger): 機械美をテーマにした作品で知られる画家。

オルフィズムは、その短い歴史にもかかわらず、20世紀美術史に重要な一石を投じた芸術運動として、今日まで記憶されています。

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