オルペウスとエウリュディケ (ルーベンス)

ピーテル・パウル・ルーベンス作『オルペウスとエウリュディケ』

バロック期のフランドルを代表する画家、ピーテル・パウル・ルーベンスが1636年から1638年にかけて制作した油彩画『オルペウスとエウリュディケ』は、ギリシア神話の有名なエピソードを題材としています。この作品は、スペイン国王フェリペ4世の依頼により、狩猟館トゥーレ・デ・ラ・パラーダを飾るために描かれました。現在はマドリードのプラド美術館に所蔵されています。

主題：オルペウスとエウリュディケの悲劇

この絵画は、オウィディウスの『変身物語』に登場するオルペウスとエウリュディケの物語を描いています。オルペウスは、蛇に噛まれて亡くなった最愛の妻エウリュディケを冥界から取り戻すため、冥府の神々に懇願します。ハデスとペルセポネはオルペウスの音楽に感動し、彼にエウリュディケを連れて帰ることを許しますが、地上に着くまで決して後ろを振り返ってはならないという条件を課します。しかし、オルペウスは約束を破って振り返ってしまい、エウリュディケは再び冥界へと引き戻されてしまうのです。

制作の背景

フェリペ4世は、トゥーレ・デ・ラ・パラーダの改築完了後、ルーベンスに多数の神話画と狩猟画を発注しました。この大規模な依頼は、フェリペ4世の弟である枢機卿フェルナンド・デ・アウストリアが仲介しました。しかし、納期が短かったため、ルーベンスは下絵を作成し、弟子たちに制作を委託しました。ルーベンス自身が完成させた作品は、この『オルペウスとエウリュディケ』を含む約15点とされています。

作品の詳細

ルーベンスは、冥界からエウリュディケを連れ帰る場面を描いています。オルペウスは月桂冠を被り、竪琴を手に持ち、先導して歩きますが、目は後ろの妻に向けられています。画面右側には、ハデスとペルセポネが冥府の玉座に座り、番犬ケルベロスが足元に控えています。背景には地獄の炎が燃え盛っており、冥界の様子が描かれています。

構図は左右に分けられ、左側には冥界を去るオルペウスとエウリュディケ、右側にはハデスとペルセポネが配置されています。エウリュディケの身体は青白く、オルペウスの生命力あふれる肉体と対照的です。エウリュディケの肌の白さは、死の虚ろさを表現するだけでなく、神々とのコントラストによって、生と死の境界を際立たせています。ハデスとペルセポネの身振りは、オルペウスに課された条件を暗示しています。

トゥーレ・デ・ラ・パラーダには、オルペウス神話を扱った別の作品『エウリュディケの死』もあります。これはルーベンスの下絵を基にエラスムス・クエリヌス2世が制作したもので、蛇に噛まれて命を落としたエウリュディケを悲しむオルペウスの姿を描いています。本作品はその続きの場面を描いたものと言えます。

ルーベンスは、作品の構図を作る際に過去の芸術作品を参照しています。ハデスはミケランジェロの作品を基に、エウリュディケはヴィーナス・プディカの彫刻を参考にしたとされています。また、制作の過程で背景の建築要素や神々の身振りが変更されました。

絵画の来歴

この絵画は、1701年にトゥーレ・デ・ラ・パラーダで記録され、その後、スペイン継承戦争でトゥーレ・デ・ラ・パラーダが焼失した後は新王宮に移されました。その後、数回記録され、1834年にプラド美術館に収蔵されました。

ルーベンスの『オルペウスとエウリュディケ』は、神話の悲劇的な物語を力強く、そしてドラマチックに描いた傑作として、今日でも多くの人々を魅了しています。

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