オンギ川

オンギ川：モンゴル高原を潤す歴史の川

オンギ川は、モンゴル国の中央部に位置するウブルハンガイ県を流れる内陸河川です。ハンガイ山脈に源を発し、ウラーン湖へと流れ込むこの川は、周辺地域の貴重な水源として、古くから人々の生活を支えてきました。

歴史の舞台

オンギ川流域は、モンゴル帝国の時代から重要な役割を果たしてきました。第二代カアン、オゴデイは、帝国の首都カラコルムを建設しましたが、完全な定住生活に移行したわけではありませんでした。カラコルムを中心とした季節移動の中で、オンギ川流域はカアンの移動範囲に含まれ、冬の離宮である「オンギのオルド」が築かれたのです。

このオンギのオルドは、オゴデイの後を継いだグユク、モンケ両カアンによっても引き継がれました。プラノ・カルピニやウィリアム・ルブルックといったヨーロッパからの使節もこの地を訪れ、モンケ・カアンに謁見しています。ルブルックが訪れた「カラコルム南方のモンケの宮殿」も、このオンギのオルドを指していると考えられています。

漢文史料では、「オンギ」は「汪吉」と音写されるほか、「忽蘭（クラン。モンゴル語で野生馬の意味）」「野馬川」などとも記されています。

清朝の時代にも、オンギ川は重要な拠点として登場します。康熙帝によるジュンガル遠征の際、1696年には清軍がオンギ川に残した食料集積所を狙って、ガルダン・ハーンの軍が南下しましたが、撃退されています。清代の漢文史料には「翁金河」もしくは「翁吉河」と記されており、清朝が北モンゴルを制圧した後には、サイン・ノヤン部の右翼末旗などの遊牧地が置かれました。

現代におけるオンギ川

現代のオンギ川流域には、ウブルハンガイ県の県庁所在地であるアルバイヘールが位置し、地域の中心として機能しています。しかし、近年の気候変動や過放牧の影響により、オンギ川の水量は減少し、生態系への影響も懸念されています。持続可能な開発と環境保全が、今後の課題となっています。

オンギ川は、古代から現代に至るまで、モンゴルの歴史と文化を育んできた重要な川です。その流れは、人々の生活を支え、歴史の足跡を刻みながら、今もモンゴル高原を潤し続けています。

関連項目

カラコルム

参考文献

岡田英弘『康熙帝の手紙』藤原書店、2002年
白石典之『モンゴル帝国史の考古学的研究』同成社、2002年
原著：張穆／訳者：須左嘉橘『改稿　蒙古遊牧記』開明堂出版部、1939年

もう一度検索