ガルダン・ハーン

ガルダン・ハーン：ジュンガルを率いた英雄の生涯

ガルダン・ハーン（1644年 - 1697年）は、オイラト部族連合に属するジュンガル部の指導者として、17世紀後半に中央アジアで大きな影響力を持った人物です。彼は単なる部族長に留まらず、軍事的な才能と政治的手腕によってジュンガル部を強大な勢力に押し上げました。

生い立ちと仏教との関わり

ガルダンは、バートル・ホンタイジの四男として生まれました。幼い頃から、チベット仏教の高僧の転生者として認定され、13歳でチベットに留学。パンチェン・ラマ1世やダライ・ラマ5世に師事し、仏教の教えを深く学びました。10年間の修行の後、故郷に戻り還俗しています。

ジュンガル部の指導者へ

1670年、ガルダンの兄であるジュンガル部長センゲが暗殺されると、ガルダンは仇を討ち、自らジュンガル部の長となりました。翌年には、ダライ・ラマ5世から「ホンタイジ」の称号を授与され、その地位を確立しました。

ガルダンは、周辺部族との戦いにも積極的に乗り出しました。義祖父であるホシュート部のオチルト・チェチェン・ハーンを捕虜にするなど、軍事的な才能を発揮。ダライ・ラマ5世から「持教受命王」の称号を与えられ、ガルダン・ボショクト・ハーンとして、ジュンガル部初のハーンとなりました。これにより、ジュンガル部はオイラト部族連合の盟主となり、ゲルク派の擁護者としての地位を確立しました。

中央アジアへの進出

1679年以降、ガルダン・ハーンは東トルキスタンや中央アジアへの遠征を繰り返しました。ハミ、トルファン、カシュガル、ヤルカンドなどのオアシス都市を次々と征服し、中央アジアに広大な勢力圏を築き上げました。征服地では、白山党のホージャを代官として置き、莫大な貢納を取り立てました。また、カザフ人やキルギス人に対しても遠征を行い、タシュケントやサイラムなどを制圧するなど、中央アジアの覇権を掌握しました。

清朝との対立

1680年代後半、モンゴルのハルハ部で内紛が発生すると、ガルダン・ハーンはこれに介入。ハルハ部を攻撃し、清朝との関係が悪化しました。ガルダン・ハーンは清朝に対し、ハルハ部の指導者の引き渡しを要求しましたが、清朝はこれに応じませんでした。

1690年、ガルダン・ハーンは清朝軍とウラーン・ブトンで激突。一時は清朝軍を押し込みましたが、最終的にはジュンガル軍は撤退を余儀なくされました。さらに、ガルダン・ハーンの甥であるツェワンラブタンが反旗を翻し、ジュンガル部の本拠地を掌握。ガルダン・ハーンは窮地に立たされました。

1696年、康熙帝自らが率いる清朝の大軍がジュンガル部に侵攻。ジョーン・モドの戦いでジュンガル軍は大敗を喫し、ガルダン・ハーンの妻であるアヌ・ハトンも戦死しました。ガルダン・ハーンは少数の部下と共に逃亡しましたが、故地に帰ることはできず、1697年に病死しました。

評価と影響

ガルダン・ハーンは、ジュンガル部を強大な勢力に押し上げた英雄として評価される一方で、その軍事的な拡大政策は、周辺地域に混乱をもたらしました。清朝との対立は、その後のジュンガル部の滅亡につながる要因となりました。彼の生涯は、17世紀の東アジア情勢に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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