オーグメンテイション

オーグメンテイション：紋章に込められた君主の想い

オーグメンテイション（Augmentation）は、紋章学において、君主が臣下に示す特別な恩寵や功績への褒賞として、紋章に施される変更や追加を指します。これは、単なる紋章の変更ではなく、君主からの特別な贈り物であり、臣下にとっては名誉の象徴となるものでした。

オーグメンテイションの背景

オーグメンテイションが用いられる背景には、主に二つの理由があります。

ミア・グレイス (Mere grace)：君主から臣下への純粋な愛顧や恩寵を示すため。
メリット (Merit)：戦功をはじめとする、臣下の功績に報いるため。

これらの理由に基づき、オーグメンテイションは臣下に与えられ、その多くは一代限りではなく、子孫へと受け継がれ、家門の誇りとなりました。しかし、オーグメンテイションの方法に決まった形式はなく、紋章を見ただけでは、どこが加増された部分なのか判別が難しい場合もあります。

オーグメンテイションの例

イングランド

ノーフォーク公爵ハワード家
2代ノーフォーク公トマス・ハワードは、フロドゥンの戦いでスコットランド王ジェームズ4世を打ち破った功績により、ヘンリー8世から特別な紋章を授けられました。この紋章は、スコットランド王の紋章を一部変更したもので、ライオンの胴体から頭部だけを切り取り、矢が口を貫通しているデザインが特徴です。これは現在もノーフォーク公の紋章の一部として受け継がれています。

チャールズ2世とロイヤル・オーク
ウスターの戦いで敗れたチャールズ2世が、王党派の住むシュロップシャーに逃れ、ペンデレル家のボスコベル館に身を隠しました。議会派の追手から逃れるため、チャールズ2世はウィリアム・カーロス大佐と共にオークの木の中で一夜を過ごし、難を逃れました。後にチャールズ2世は、このロイヤル・オークでの忠誠を称え、カーロス大佐とペンデレル家に対し、3つの王冠が描かれたフェスとオークの木を組み合わせた紋章を授けました。この紋章には「王に忠実なる者は王国の護りなり」というモットーが刻まれ、彼らの忠誠心を象徴しています。

フランス

フランスでは、イングランドほどオーグメンテイションは一般的ではありませんでしたが、ジャンヌ・ダルクの一族に与えられた例があります。ジャンヌの生家ダルク一族は、フランスからイングランド勢力を駆逐したジャンヌの功績により、シャルル7世から特別な紋章を授けられました。この紋章は、青地を背景に、垂直に立つ剣がフランス王冠を支え、その両脇にはフランス王家を象徴するユリの花が配されたデザインとなっています。シャルル7世は紋章と共に、ユリを意味する「デュリ」という姓をダルク一族に与え、以後、彼らはこの姓を使用しました。

近代

フィンランドの都市ヴァーサは、フィンランド内戦時に一時的に首都機能を果たしたことから、内戦終結後、議会によって市章に自由の十字を加える権利が与えられました。このオーグメンテイションは、市章から飛び出す形でデザインされ、自由の象徴としての十字を際立たせています。

オーグメンテイションの意味

オーグメンテイションは、単なる紋章の装飾ではなく、君主と臣下の間の信頼関係、そして臣下の功績を称えるための重要な手段でした。それは、言葉を超えたメッセージとして、家門の歴史と名誉を後世に伝える役割を果たしたのです。紋章に込められた物語を読み解くことで、歴史の深層に触れることができるでしょう。

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