オーバーザルツベルク

オーバーザルツベルク：塩の山の歴史からナチス時代の影、そして現代へ

ドイツ、バイエルン州ベルヒテスガーデン近郊に位置するオーバーザルツベルクは、その歴史的背景から現代に至るまで、複雑で興味深い物語を秘めた場所です。かつては「塩の山」を意味する名のとおり、岩塩の採掘地として知られ、19世紀には美しいアルプスの自然と穏やかな気候を活かし、観光地や避暑地として発展しました。作家リヒャルト・フォスの小説の舞台にもなったこの地には、多くの観光客が訪れ、ペンションやホテルに滞在しました。裕福な人々の別荘も立ち並び、冷凍技術の開発者であるカール・フォン・リンデも10年間をこの地で過ごしました。

しかし、オーバーザルツベルクの歴史は、20世紀前半の暗い影を逃れることはできません。アドルフ・ヒトラーは、この地を気に入って私邸としてベルクホーフを建設し、ナチス政権の中枢として利用しました。ヒトラーの政権掌握後、オーバーザルツベルク周辺はナチス党によって買収され、既存の建物は取り壊され、大規模な改築が行われました。ベルクホーフの設計にはヒトラー自身も関わっており、高官用の別荘、親衛隊の兵舎、そして秘密の地下壕などが建設されました。高級ホテルは警備員の宿舎や賓客用の宿舎となり、別のホテルは親衛隊の司令部となりました。ゲーリングやシュペーアなど、ナチス高官たちもこの地に別荘を構えました。1936年以降は、一般人の立ち入りが制限されました。

オーバーザルツベルクは、ヒトラーの政治活動の舞台にもなりました。ヒトラーはここでオーストリア併合やハンガリー占領に関する重要な決定を行い、多くの外国要人を迎え入れました。イギリスの元首相デビッド・ロイド・ジョージやネヴィル・チェンバレン、ルーマニア王カロル2世、そして第二次世界大戦中にはムッソリーニやパヴェリッチといった枢軸国の首脳も訪れています。1940年には、ヒトラーの50歳の誕生日を祝してケールシュタインハウスという新たな山荘が贈られました。

終戦間近の1945年4月、ヒトラーはオーバーザルツベルクに国防軍最高司令部や空軍総司令部を移転しました。しかし、空襲を受け、ベルクホーフを含む多くの施設が破壊されました。残された建物は略奪や放火にあい、オーバーザルツベルクは廃墟と化しました。戦後、アメリカ軍は略奪を防ぐため、旧住民の帰還を禁止し、ナチス時代の建物の大部分を爆破しました。しかし、一部の地下壕などは現在も残っています。

1949年初頭に立入禁止区域が解除されると、観光客が再び訪れるようになりました。1951年夏には13万6500人もの観光客がオーバーザルツベルクを訪れました。アメリカ軍が接収していたホテルは、1995年に返還・解体されました。ナチス党が所有していた土地の扱いを巡っては、バイエルン州とホテル王アルベルト・シュタインベルガーの間で売買交渉が行われたものの、最終的に成立しませんでした。

現在、オーバーザルツベルクにはホテルやスキー場などがあり、観光地として機能しています。2005年には高級リゾートホテルが開業しましたが、ナチス時代の歴史を考慮していないとの批判を受け、従業員には歴史に関する講習が行われています。1999年には、ナチス時代の資料を展示する現代史研究所が建設され、当時の歴史を学ぶことができます。ケールシュタインハウスは現在も観光スポットとして残っていますが、ベルクホーフがあった場所は森林となっています。オーバーザルツベルクは、その歴史の重さと現代の姿が共存する、複雑で示唆に富む場所なのです。

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