オーファンズ (アルバム)

トム・ウェイツの集大成とも言える3枚組アルバム『オーファンズ（Orphans: Brawlers, Bawlers & Bastards）』は、彼の音楽的探求の軌跡を辿る旅のようだ。2006年に発表されたこのアルバムは、単なるベスト盤や未発表曲集とは一線を画し、ウェイツ自身のキュレーションによる、テーマを持った作品集となっている。

収録された56曲（隠しトラックを含む）は、1980年代から2000年代にかけて録音されたもので、その内容は多岐にわたる。新曲に加え、映画のサウンドトラックやトリビュート・アルバム、オムニバス・アルバムなどに提供された既発曲も含まれており、彼の活動の幅広さを改めて感じさせる。

アルバムは3枚のディスクに分かれており、それぞれに「Brawlers（喧噪編）」、「Bawlers（叙情編）」、「Bastards（実験編）」という副題が付けられている。

Brawlers（喧噪編）は、ウェイツの荒々しく、時にユーモラスな側面を強調した楽曲群。初期の作品を彷彿とさせる、酒場の喧騒やアウトローの生き様を描いたような、泥臭いサウンドが特徴。
Bawlers（叙情編）は、彼のメランコリックで詩的な側面を浮き彫りにした楽曲群。人生の苦しみや哀愁、そして希望を歌い上げる、心に染み入るようなバラードが中心。
* Bastards（実験編）は、彼の前衛的で実験的な側面を前面に押し出した楽曲群。既存の音楽の枠にとらわれない、自由な発想とアプローチが光る、刺激的なサウンドが展開される。

この3つの側面は、トム・ウェイツというアーティストを理解するための重要な要素であり、『オーファンズ』は、それらを余すところなく堪能できる作品と言えるだろう。限定盤には94ページのブックレットが付属し、彼の音楽世界をより深く理解するための手がかりとなる。

特筆すべきは、このアルバムに収録されている楽曲の多様性だ。ラモーンズのカバー「The Return of Jackie and Judy」や、スタンダード・ナンバー「Sea of Love」のカバーなど、彼の音楽的なルーツや影響を受けたアーティストを垣間見ることができる。また、映画音楽への貢献も忘れてはならない。『デッドマン・ウォーキング』や『シュレック2』といった作品に提供された楽曲は、彼の音楽が映像作品に深みを与えていることを証明している。

さらに、ジョニー・キャッシュに提供した「Down There by the Train」のセルフカバーは、彼のソングライターとしての才能を改めて認識させてくれる。他者への提供曲を自ら歌うことで、楽曲の新たな魅力を引き出している。

『オーファンズ』は、トム・ウェイツの音楽キャリアにおける重要なマイルストーンであり、彼のファンはもちろん、彼の音楽に初めて触れる人にとっても、格好の入門編となるだろう。彼の音楽の奥深さと多様性を体験できる、貴重な作品集だ。

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