オーボエ協奏曲 (マルチェッロ)

アレッサンドロ・マルチェッロ：オーボエ協奏曲 ニ短調

アレッサンドロ・マルチェッロが18世紀初頭に作曲した《オーボエと弦楽合奏のための協奏曲 ニ短調》は、作曲者の最もよく知られた作品であるとともに、バロック時代のオーボエ協奏曲の中でも特に重要な位置を占める傑作です。その抒情的な旋律と構成美から、今日でも世界中で頻繁に演奏され、多くの音楽愛好家に親しまれています。

作品の歴史と評価

この協奏曲は、成立以来、一部で作曲者の弟であるベネデット・マルチェッロの作品と誤って伝えられてきた歴史を持ちます。また、同時代のイタリアを代表する作曲家、アントニオ・ヴィヴァルディの作品とされることもありましたが、その後の研究により、現在ではアレッサンドロの真作として広く認識されています。

本作品の音楽的価値の高さは、ドイツの偉大な作曲家ヨハン・ゼバスティアン・バッハが、この協奏曲に強い関心を示し、自身の作品としてチェンバロ独奏曲（BWV 974、ニ短調）へと編曲していることからも明らかです。バッハによるこの編曲は、原曲の持つ魅力を損なうことなく、チェンバロの特性を最大限に活かした優れたトランスクリプションとして知られ、原曲とともに演奏される機会も少なくありません。

楽曲構成

本作品は、急・緩・急というバロック協奏曲の標準的な3つの楽章構成をとっています。

第1楽章：アンダンテ・スピッカート（Andante spiccato）
力強く、躍動感のある付点リズムが特徴的な楽章です。弦楽合奏による堂々とした開始に続き、オーボエが表情豊かな旋律を奏でます。
第2楽章：アダージョ（Adagio）
緩やかなテンポで演奏される、この協奏曲で最も広く知られている楽章です。オーボエによる哀愁を帯びた美しい旋律が、シンプルな伴奏に乗って歌われます。その深い情感は聴く者の心を捉えて離しません。この楽章については、少なくとも二種類の異なる版（異稿）が存在することが確認されており、どちらの版も現代において頻繁に演奏されています。これらの異稿間の主な違いは、弦楽パートの和声進行や、中間部におけるオーボエの旋律線の細かい表現に現れています。
* 第3楽章：プレスト（Presto）
一転して、非常に速いテンポで演奏される活気あふれる楽章です。オーボエの技巧的なパッセージが光り、華やかな雰囲気のうちに楽曲が閉じられます。

現代における受容

《オーボエと弦楽合奏のための協奏曲 ニ短調》は、その普遍的な美しさから、クラシック音楽のコンサートにおいて定番のレパートリーの一つとなっています。また、コンサートホールにとどまらず、様々なメディアやイベントでもその音楽が用いられています。

特に近年の例としては、フィギュアスケートにおける使用が挙げられます。日本のトップスケーターである宇野昌磨選手は、2020-2021シーズンのエキシビションプログラムにおいて、そして翌2021-2022シーズンのショートプログラムにおいて、この協奏曲の、特に有名な第2楽章の音楽を選曲しました。宇野選手の感情豊かな演技と、この協奏曲の表現力豊かな音楽が見事に融合し、国内外のフィギュアスケートファンに強い印象を残しました。

アレッサンドロ・マルチェッロのこのオーボエ協奏曲は、バロック時代の傑作として、また時代やジャンルを超えて多くの人々に愛される音楽として、今後も演奏され続け、聴き継がれていくことでしょう。楽譜は国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）などのオンラインリソースを通じて容易に入手可能であり、その普及にも一役買っています。古楽器を使用したピリオド楽器アンサンブルによる演奏も盛んに行われており、当時の響きを探求する試みも続いています。

もう一度検索