オールステート (自動車)

オールステート：幻の自動車ブランド

オールステートは、アメリカの大手流通企業シアーズ・ローバックが、1952年と1953年のわずか2年間のみ販売した自動車ブランドです。シアーズは保険事業も展開しており、自動車部品の販売も行っていました。この自動車事業への参入は、意外性をもって迎えられました。

カイザー・モーターズとの提携

オールステートの自動車は、当時アメリカ自動車業界への後発参入組であったカイザー・モーターズ・コーポレーションが製造を担当しました。ベースとなったのは、カイザーのコンパクトカー「ヘンリーJ」です。ヘンリーJと同様に、ファストバックの2ドアセダンという単一ボディスタイルのみで、シリーズ4とシリーズ6の2つのラインナップが用意されました。

車種と仕様

1952年モデルでは、シリーズ4に111型スタンダード、113型デラックス、110型ベーシックのグレードがありました。シリーズ6にはベーシックと、豪華仕様の115型デラックスが存在し、スタンダードは提供されていませんでした。1953年モデルでは、外観上の変更はありませんでしたが、車重が若干増加しています。また、オールステート・ベーシックモデルは廃止され、価格が引き上げられました。

シリーズ4には134.2CID（2.199cc）のL型サイドバルブ4気筒68hpエンジン、シリーズ6には161CID（2.638cc）のL型サイドバルブ6気筒80hpエンジンが搭載されました。いずれもウィリス製です。トランスミッションは3速マニュアルが標準で、オーバードライブ機構はオプションで用意されていました。

ヘンリーJとの違い

オールステートはヘンリーJをベースとしていますが、いくつかの独自の特徴がありました。ボンネットとリアデッキにはオールステートのネームプレートが追加され、内装はより豪華に仕立てられました。サラン繊維やレザー、ビニールなどが使用され、快適性が向上しています。また、ハブキャップ、ホイールカバー、ホーンスイッチ、計器類の装着部分、ロック付グローブボックス、トランクリッド、エンジンの色など、内外装の意匠にも変更が加えられました。特に目を引くのは、2本線のフロントグリルで、ジェット機を模したボンネットオーナメントは、タッカー社からカイザーに移籍した工業デザイナーのアレックス・トレムリスが手掛けました。

さらに、タイヤ、チューブ、スパークプラグ、バッテリーにはオールステートブランドの製品が使用され、シアーズの「トリプル・ギャランティ」保証が付与されました。初期のヘンリーJには装備されていなかったトランクリッドが、オールステートには標準装備されています。内装材には、耐久性に優れた独自の素材が使用されていました。

販売戦略と結果

シアーズは、以前にも1908年から1912年まで自社ブランドで自動車を販売した経験がありました。オールステートは、カイザーとの提携により、ヘンリーJの販売不振を打開しようとする戦略の一環として誕生しました。当初は米国南部および南西部に限定して販売され、徐々に地域を拡大する予定でした。

シアーズはオールステートを「米国市場最安値のフルサイズセダン」として宣伝しましたが、中古車の引取りを行わなかったことや、デパートでの自動車購入に対する顧客の抵抗感などから、販売台数は伸び悩みました。2年間での販売台数はわずか2,363台にとどまり、その後、カイザーもヘンリーJの販売を終了しました。

オールステートは、短期間で市場から姿を消した幻の自動車ブランドとなりましたが、そのユニークな出自と特徴は、自動車史にその名を刻んでいます。

参考文献

Gunnell, John, Editor. (1987). The Standard Catalog of American Cars 1946-1975. Kraus Publications. ISBN 0-87341-096-3
Langworth, Richard M., Author. (1975). The Last Onslaught on Detroit. Princeton Publishing, Inc.. ISBN 0-915038-04-8

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