オー・マーシー

ボブ・ディラン『オー・マーシー』：深遠なサウンドと内省的な歌詞の世界

『オー・マーシー』（Oh Mercy）は、ボブ・ディランが1989年にリリースした26枚目のスタジオ・アルバムです。このアルバムは、ビルボード200チャートで最高30位、全英アルバム・チャートで6位を記録し、RIAAによってゴールド・ディスクに認定されています。それまでのディランの音楽スタイルとは一線を画す、深みのあるサウンドと内省的な歌詞が特徴的な作品です。

制作の背景と特徴

このアルバムの大きな特徴は、U2のプロデュースで知られるダニエル・ラノワをプロデューサーに起用したことです。ボノの紹介でラノワと出会ったディランは、彼の独特な音作りと手腕に惹かれ、共にこのアルバムを制作することになりました。当時ラノワは、ネヴィル・ブラザーズのアルバム『イエロー・ムーン』をプロデュースしており、その縁でネヴィル・ブラザーズのメンバーやサポート・ミュージシャンが多数参加しています。レコーディングは全編ニューオーリンズで行われ、独特の雰囲気がアルバム全体に反映されています。当初、アルバムタイトルは『エヴリシング・イズ・ブロークン』と予定されていましたが、最終段階で『オー・マーシー』に変更されました。

ジャケットと収録曲

アルバムのジャケットには、ニューヨークのヘルズ・キッチンにある壁に描かれたストリート・アーティスト、トロツキーの絵が使用されています。この絵は、アルバムの持つ独特な雰囲気と深く結びついています。

収録曲は全曲ボブ・ディランによる作詞・作曲で、以下の通りです。

1. ポリティカル・ワールド - Political World
2. 涙零れて - Where Teardrops Fall
3. エヴリシング・イズ・ブロークン - Everything Is Broken
4. 鐘を鳴らせ - Ring Them Bells
5. 黒いコートの男 - Man in the Long Black Coat
6. モスト・オブ・ザ・タイム - Most of the Time
7. ホワット・グッド・アム・アイ？ - What Good Am I?
8. 自惚れの病 - Disease of Conceit
9. お前の欲しいもの - What Was It You Wanted
10. シューティング・スター - Shooting Star

これらの楽曲は、ディランの内省的な歌詞と、ラノワが作り出す独特のサウンドが融合し、深い感動を呼び起こします。特に、「モスト・オブ・ザ・タイム」や「リング・ゼム・ベルズ」は、多くのファンに愛される名曲として知られています。

アウトテイクと関連作品

このアルバムのアウトテイクとして、「シリーズ・オブ・ドリームズ」が、『ブートレッグ・シリーズ第1〜3集』や『グレーテスト・ヒット第3集』に収録されています。また、「ディグニティ」は、ラノワがプロデュースしたバージョンにオーバーダブとリミックスを施したものが『グレーテスト・ヒット第3集』に収録されました。さらに、「ディグニティ」のオリジナルバージョンは、テレビドラマ『Touched by an Angel』の挿入歌として使用され、サウンドトラック盤やベストアルバムにも収録されました。

アルバムに収録された「エヴリシング・イズ・ブロークン」のオリジナルバージョンである"Broken Days/Three of Us"が、iTunesで短期間リリースされたことがあります。その後、リマスターされ、『テル・テイル・サインズ（ブートレッグ・シリーズ第8集）』で再リリースされました。

『テル・テイル・サインズ（ブートレッグ・シリーズ第8集）』には、他にも「モスト・オブ・ザ・タイム（オルタネイト・テイク）」、「エヴリシング・イズ・ブロークン（オルタネイト・テイク）」、「ボーン・イン・タイム」、「ゴッド・ノウズ」などが収録されています。これらの楽曲は、ディランの創作過程を垣間見ることができる貴重な音源です。特に「ボーン・イン・タイム」と「ゴッド・ノウズ」は、後に書き直され、次のアルバム『アンダー・ザ・レッド・スカイ』に収録されています。

パーソネル

このアルバムには、以下のミュージシャンが参加しています。

ボブ・ディラン - ボーカル、ギター、ピアノ、ハーモニカ、12弦[[ギター]]、オルガン
ダニエル・ラノワ - ドブロ、ラップ・スティール、ギター、オムニコード
メイスン・ラフナー - ギター
ブライアン・ストールツ（ネヴィル・ブラザーズ） – ギター
トニー・ホール（ネヴィル・ブラザーズ） – ベース
シリル・ネヴィル（ネヴィル・ブラザーズ） - パーカッション
ウイリー・グリーン（ネヴィル・ブラザーズ） - ドラムス
Paul Synegal – ギター
Larry Jolivet – ベース
Alton Rubin, Jr. – ウォッシュボード
John Hart – サキソフォン
Rockin' Dopsie – アコーディオン
Malcolm Burn – タンバリン、キーボード、mercy keys、ベース
Daryl Johnson – パーカッション

プロデューサーはダニエル・ラノワが担当し、レコーディングにはマルコム・バーンとマーク・ハワードが携わっています。マスタリングはグレッグ・カルビが担当しました。

まとめ

『オー・マーシー』は、ボブ・ディランのキャリアの中でも特に重要な作品の一つであり、彼の音楽的な進化を示す上で欠かせないアルバムです。ダニエル・ラノワとの共同作業によって生まれたこのアルバムは、ディランの新たな側面を引き出し、多くのファンを魅了しました。深みのあるサウンドと内省的な歌詞は、聴くたびに新たな発見をもたらし、長く愛され続けることでしょう。

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