カイザー・ヘンリーJ

ヘンリーJ（Henry J）

ヘンリーJは、アメリカのカイザー＝フレーザー・コーポレーションによって、1950年から1951年にかけて製造された自動車です。1953年まで販売され、特に平均的なアメリカ人をターゲットにした低価格なモデルとして注目を集めました。この車の名前は、会社の会長であるヘンリー・J・カイザーに由来しています。

概要

ヘンリーJは、ヘンリー・J・カイザーの先見の明から生まれました。カイザーは、自社の乗用車の販売を増やすために、低コストで生産できる車を開発することを決定します。この発想は、かつてヘンリー・フォードがフォード・モデルTを作り上げたのに影響を受けています。ヘンリーJは、必要最低限の装備と部品を使い、コストを徹底的に抑える設計がなされました。その結果、初期型のヘンリーJでは、リアトランクリッドが存在せず、トランクへのアクセスはリアシートを折りたたむことで行わなければいけませんでした。このように、ボディの設計もコスト重視で、リアウィンドウは開かない固定式でした。

エンジンは、2.2Lの4気筒サイドバルブエンジンで、68hpの出力を持つものでした。このエンジンは、同時期のウィリス＝オーバーランド製ジープと部品を共用していました。後期モデルでは、2.6Lのサイドバルブ6気筒エンジンもラインナップに追加されましたが、全体としては大型の敵車両に比べると一回り小さいエンジンでした。これは、より良い燃費性能を期待した結果といえるでしょう。

1952年には、ヘンリーJはカイザー社によってリバッジされ、大手の通信販売会社シアーズ・ローバックからオールステートブランドで販売されました。オールステートはほぼヘンリーJと同じ仕様で、外観や内装に若干の変更がありましたが、販売は期待には応えられませんでした。その後、シアーズは自動車販売に撤退しました。ヘンリーJは価格の面で競争力があったものの、消費者が求める機能やデザインに応えられず、売上の低下を招く結果となりました。

デザイン上の問題もあり、ヘンリーJはナッシュ＝ケルビネーターが販売するコンパクトカー「ランブラー」に対抗できませんでした。ランブラーは、アクセサリー的要素を持つコンバーチブル車として売り出され、消費者の注目を集めました。対するヘンリーJのシンプルなデザインは、消費者に安っぽい印象を与え、人気を維持できませんでした。

1954年には、カイザー社の生産がオハイオ州トレドに統合され、ヘンリーJは競合車両であるウィリス・エアロに地位を譲る形で、1953年を以て生産を終了しました。その後、残った在庫は翌年の年式モデルとして販売されました。

日本での組立販売

ヘンリーJは日本でもCKD（完全ノックダウン）生産が行われました。1950年1月に設立された東日本重工業は、カイザー＝フレーザーとライセンス提携を結び、川崎工場でヘンリーJの生産を開始しました。この工場は、戦後日本で初の外国製乗用車を組み立てる拠点となり、後の国産自動車メーカーにも影響を与えました。

生産は当初の予想に比べて少なく、最終的に509台が生産され、そのうち185台は沖縄やタイに輸出されました。ヘンリーJの生産は1954年9月に終了しましたが、三菱はこの経験を通じて自社の技術の向上に寄与しました。1989年には、岡崎市の三菱自動車工業技術センターにヘンリーJが展示されることとなり、その後も多くの人々がこのモデルの歴史に触れる機会を持っています。

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