カザン航空機製造合同

カザン航空機生産合同（KAPO）

ロシア連邦タタルスタン共和国の首都カザンに本社を置くカザン航空機生産合同（KAPO）は、S・P・ゴルブーノフ名称カザン航空機生産合同（英語名称：Kazan Aircraft Production Association）としても知られる、長い歴史を持つ主要な航空機製造企業です。設立以来、多岐にわたる航空機の開発・生産を手がけ、これまでに累計34機種、18,000機以上もの機体を世に送り出してきました。

設立から変遷

KAPOの起源は、今から一世紀以上前の1916年4月に遡ります。当時、モスクワ西部のフィリ地区に設けられたRusso-Balt社（ロシア・バルト車両工場）の自動車製造工場がその前身です。第一次世界大戦下、軍事的な必要性からこの工場は航空機の生産にも携わるようになります。

1922年11月、新体制となったソビエト連邦は、ドイツの航空機製造大手ユンカースと共同事業契約を締結し、フィリの工場は「国立第7航空機工場」（GAZ No.7）として新たなスタートを切りました。この合弁は、ソ連が西側の先進技術を取り入れる上で重要な役割を果たしました。しかし、ドイツ政府との関係悪化に伴い合弁事業は解消され、工場はソビエト連邦の国家管理下に完全に移管されました。

ソ連邦の傘下に入った工場は、歴史的な出来事を記念して「十月革命十周年記念第22工場」（завод № 22 имени 10-летия Октября）と改称されました。さらにその後、飛行機事故で不慮の死を遂げた工場長、S・P・ゴルブーノフ氏の功績を顕彰し、彼の名が冠されることになりました。

第二次世界大戦中、ドイツ軍の侵攻を避けるため、1941年に工場設備と人員はモスクワから遥か東方のカザンへと緊急疎開されました。終戦後、1946年には、ドイツの航空機メーカーであるハインケルから接収されたエルスニッツ工場の設備がカザンへ移送され、戦後の生産体制強化に貢献しました。なお、KAPOの創業の地であるモスクワ・フィリの工場跡地は、現在、ロシアの重要な宇宙関連施設である「クルニチェフ国家研究生産宇宙センター」となっています。

現在の主要製品と将来展望

現在のカザン航空機生産合同は、主に以下の航空機を製造しています。

Tu-214旅客機: 中距離路線向けの双発ジェット旅客機で、ロシア国内での運用が中心です。その派生型は、要人輸送機としても使用されています。
Tu-160戦略爆撃機: 可変翼を持つ大型の超音速戦略爆撃機であり、「ホワイトスワン」の愛称で知られています。ロシア空軍の長距離爆撃機部隊の主力であり、KAPOは新規生産に加え、既存機の近代化改修も手がけています。

過去には、短距離路線向けのTu-334リージョナルジェット機や、大型貨物輸送を目的としたTu-330貨物機などの開発・生産計画も進められていましたが、これらのプロジェクトは最終的に中止されています。

将来に向けた動きとしては、2010年にロシアのメディアから、ロシア空軍の既存爆撃機部隊の更新が完了した後、将来世代の戦略爆撃機プログラムであるPAK DA（Perspective Aviation Complex for Long-Range Aviation）の生産拠点となる可能性があると報じられました。これが実現すれば、KAPOはロシアの航空戦略において引き続き中心的な役割を担うことになります。

カザン航空機生産合同は、その長い歴史と豊富な経験を活かし、現代のロシア航空産業においても重要な地位を占めています。

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