カストレンセ円形闘技場

イタリアの首都ローマ、ラテラノ地区の東寄りにひっそりと佇むカストレンセ円形闘技場（Amphitheatrum Castrense）は、古代ローマ時代に建設された貴重な建築遺産です。ローマの街に現存する円形闘技場の中でも、世界的に有名なコロッセオ（フラウィウス円形闘技場）に次いで二番目に古い歴史を持つことで知られています。

この闘技場が建設されたのは、紀元3世紀の前半と推定されています。明確な記録は少ないものの、当時のローマ帝国を統治していたセウェルス朝の皇帝、おそらくはヘリオガバルス帝の治世下であったと考えられています。特筆すべきは、この闘技場が一般市民のための公共施設としてではなく、皇帝が所有する広大なヴィッラ（ローマ郊外の邸宅や離宮）の一部として設けられた点です。これは、皇帝とその周辺の人々が私的な娯楽や催しのために利用した可能性を示唆しています。

建物の形状は楕円形をしており、長軸は約88メートル、短軸は約75.8メートルの規模を持っています。コロッセオのような巨大さはありませんが、古代の円形闘技場としては十分な大きさを備えていました。建材としては、一般的なローマ建築で多用される石材ではなく、主にレンガが用いられている点が特徴的です。これにより、当時の建築技術の多様性や、使用目的に応じた建材の選択が見て取れます。ただし、装飾が施されていたと考えられる部分など、一部には耐久性に優れたトラバーチン（石灰華）が使用されていました。建設された当初、観客席を支える外壁部分は三層構造となっていましたが、残念ながら現在まで良好な状態で残されているのはそのうちの一階部分のみです。

建設からおよそ半世紀後の紀元3世紀末、ローマ市は防衛力の強化を迫られ、アウレリアヌス帝の指揮のもと、都市を囲む強固な城壁が建設されました。このアウレリアヌス城壁の建設にあたり、カストレンセ円形闘技場の堅牢な構造と市街地に近い立地が考慮され、その外壁の一部が城壁本体に組み込まれる形で再利用されました。これにより、闘技場は都市防衛ラインの一部としての役割も担うことになります。城壁との一体化を図るため、建物の周囲の一部は地盤が掘り下げられる改変が加えられました。しかし、中世以降、建物の保存状態は悪化し、16世紀の中頃には、当時まで残存していた二階以上の部分が取り壊されてしまいました。これは、建築材の再利用や、都市の変遷に伴う構造物の役割の変化などが背景にあったと考えられます。

現在、カストレンセ円形闘技場の遺構は、その北東に隣接して建つ歴史あるサンタ・クローチェ・イン・ジェルサレンメ聖堂の敷地内にあり、聖堂の所有となっています。かつて剣闘士の激しい戦いや、観客の歓声が響き渡った闘技場の内部空間は、驚くべきことに現代では静かな菜園として活用されています。ここで丹精込めて栽培された野菜などの農産物は、アウレリアヌス城壁に設けられた開口部を利用して設けられた売店で販売されており、古代遺跡が現代の暮らしに溶け込む珍しい光景を見ることができます。

この歴史的な遺跡を訪れるには、ローマ市内の公共交通機関が便利です。近郊鉄道のローマ＝ジャルディネッティ線のマッジョーレ門停留所からは南へ約500メートル、ATACトラム3系統のサンタ・クローチェ・イン・ジェルサレンメ広場停留所からは南へ約100メートルと、比較的近い距離にあります。また、ローマ地下鉄A線のサン・ジョヴァンニ駅からもアクセス可能で、駅の東北東約500メートルの位置にあります。これらの交通機関を利用すれば、ローマ観光の際にカストレンセ円形闘技場を容易に見学することができます。

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