カスミザクラ

カスミザクラ（霞桜）

カスミザクラ（学名: Cerasus leveilleana）は、バラ科サクラ属に分類されるサクラの一種です。日本に自生する10種ないし11種あるサクラ属の基本野生種の一つで、山地に生育します。名前の由来は、遠くから見た際に霞のように見える様子からきています。また、花柄に短い毛が生えていることから、ケヤマザクラ（毛山桜）という別名も持ちます。その他、チョウセンヤマザクラ、ウスゲカスミザクラという別名も存在します。

特徴

カスミザクラは、樹高が20mを超える高木で、樹形は盃状になります。樹皮は灰紫褐色で、横長の皮目があるのが特徴です。一年枝は淡灰褐色で、皮目が小さく、無毛の場合と毛がある場合があります。小枝には短枝がよくできます。老木になると、他のサクラと同様に、樹皮の横筋は消失します。

花期は他のサクラよりもやや遅く、4月から5月にかけて開花します。東京では4月下旬頃、標高の高い地域や東北地方では5月上旬頃に見頃を迎えます。花は一重咲きで中輪、花弁の色は白色です。ヤマザクラに似た花を咲かせますが、花はやや小さく、わずかに紅を帯びる個体も見られます。花弁の先端には切れ込みがあり、雄蕊は40本程度です。花期には花柄に毛があることが特徴の一つです。

葉は卵型で、基部が若干細く、裏面は光沢を帯びています。葉と葉柄には毛が多くあります。ヤマザクラと同様に、花と葉が同時に展開しますが、葉が赤くならずに新緑色になる点が異なります。日本の桜の中では比較的乾燥に強く、土壌の乏しい岩石地のような場所でも生育しやすい性質を持ちます。

冬芽は卵形や長卵形の鱗芽で、無毛で艶があり、7枚から10枚の芽鱗に包まれています。枝先には頂生側芽を伴う頂芽がつき、側芽は枝に互生します。葉痕は半円形で、維管束痕が3つあります。

ヤマザクラよりも花期が1週間から2週間ほど遅いため、種間雑種が避けられ、種としての独立性を保っています。この花期の遅さにより、山中では他の植物の葉の展開に紛れて、カスミザクラの開花が目立たないことがあります。これが、本種が花見であまり利用されてこなかった原因と考えられています。

分布域

カスミザクラは、日本では冷温帯を中心に、北海道から九州北部にかけて広範囲に分布しています。また、朝鮮半島や中国にも分布しています。ヤマザクラよりも標高の高い場所に生育することが多いですが、分布域は重なることもあります。本州中部においては、標高の低い場所でヤマザクラと分布が重なることがあります。

分類の混乱

カスミザクラは、個体ごとの形態変異が大きいため、長年分類上の混乱がありました。日本では、明治時代には「ケヤマザクラ」と呼ばれ、ヤマザクラの毛がある変異個体程度にしか認識されていませんでした。その後、現在ではカスミザクラとして一つに分類されるカスミザクラ、ケヤマザクラ、チョウセンヤマザクラが異なる種として扱われていた時期もありました。一方で、欧米の一部では、現在でもカスミザクラがヤマザクラやオオシマザクラと同一種として扱われる場合があります。

脚注

注釈

出典

参考文献

鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、171頁。ISBN 978-4-416-61438-9。

外部リンク

植物生態研究室（波田研） - ウェイバックマシン（2007年10月29日アーカイブ分）

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