カタラン・オープニング

チェスの戦術的な序盤の進め方の一つに、「カタラン・オープニング（Catalan Opening）」があります。これは「カタラン・システム（Catalan System）」、「カタロニア布局」、「カタルーニャ布局」などとも呼ばれ、白が1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3と指し進めた局面を基本的な形とします。

このオープニングにおける白の狙いは、3手目のg3によって、キングサイドのビショップをポーンの後ろに配置する「フィアンケット」の準備を進めることにあります。これにより、中央のd4とc4ポーンによる盤中央の支配と、キングサイドに配置されたビショップの強力な活用を同時に実現しようとします。

カタラン・オープニングは、クイーンズ・ギャンビット・ディクラインドから手順が前後して発生する局面が多く見られます。そのため、文献によっては、クイーンズ・ギャンビット・ディクラインドからの変化としてこのオープニングの基本形を定義しているものもあります。また、1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3といった、ボゴ・インディアン・ディフェンスやクイーンズ・インディアン・ディフェンスに似た開始手順を経て、手順が前後してカタラン・オープニングの局面に至るケースも存在します。

このオープニングの大きな特徴は、黒が4手目でd5と指すかどうによって、その後のゲーム展開が全く異なる方向へ進む点です。黒がd5を選択するか、それとも別の手を選ぶかで、白が採用する戦略や黒の最適な応答も変わってきます。

なお、カタラン・オープニングとは別に「アンチ・カタラン・オープニング」という序盤の戦術も存在しますが、これはカタラン・オープニングとは異なり、手順前後ではなくクイーンズ・ギャンビット・ディクラインドから直接派生する変化として現れます。

主な変化の例

カタラン・オープニングから派生する多くの変化の中で、代表的なものをいくつか紹介します。黒が3手目でd5と応じる形は非常に一般的です。

基本ラインの一例: 3... d5 4.Bg2 Be7 5.Nf3 0-0 6.0-0 Nbd7 7.Qc2 c6 8.Nbd2 b6 9.e4 Bb7 10.b3 Rc8 11.Rd1 Qc7 12.Bb2 Rfd8 といった手順で進行することがあります。このラインは、両者が比較的堅実な駒組みを目指す展開です。

黒の4手目の代替手: 黒は4手目でd5以外の選択肢も持ちます。
4... dc と指す変化では、白は5.Qa4+ Bd7 6.Qxc4 Bc6 7.Bg2 Nbd7 8.Nc3 Nb6 9.Qd3 Bb4 といった形で駒を展開していきます。
4... c5 と指す変化は、5.cd Nxd5 6.Bg2 cd 7.0-0 Bc5 8.Nxd4 a6 といった手順で進行します。

4... c5 変化における注意点: 4... c5 5.cd Nxd5 6.Bg2 と進んだ局面で、黒が6... Nc6 と指す手は、1961年のスミスロフ対トルシュ戦で黒のトルシュが採用したことで知られています。このゲームは 7.0-0 Be7 8.Nc3 Nxc3 9.bc 0-0 10.Rb1 Qa5 11.Qb3 Rd8 12.Bf4 cd 13.Nxd4 Nxd4 14.cd Rxd4? 15.Bxb7 Bxb7 16.Qxb7 Qd8? 17.Bb8! と進行し、最終的に黒のトルシュが駒損により投了に至りました。

黒の6手目の代替手: 上記の基本ライン(3... d5 4.Bg2 Be7 5.Nf3 0-0 6.0-0...)において、黒は6手目でも異なる手を選ぶことがあります。
6... dc と指した場合、7.Qc2 a6 8.Qxc4 b5 9.Qc2 Bb7 といった流れになることがあります。
6... c6 と指した場合、7.Nc3 b6 8.Ne5 a5 9.Qc2 Ba6 と進む変化があります。

白の7手目の代替手: 基本ラインにおいて、白は7手目でNc3と指すことも考えられます。例えば、7.Nc3 c6 8.b3 b6 9.Bb2 Bb7 10.Qc2 Rc8 といった形で展開する例があります。

黒の7手目の代替手: 基本ラインにおける黒の7手目も、b6という選択肢があります。この場合、例えば 8.cd Nxd5 9.Nc3 Bb7 10.Nxd5 Bxd5 といった形で進行することが考えられます。

カタラン・オープニングは、白が堅実な陣形を構築しつつ、キングサイドのビショップの活性化と中央のポーン構造を重視する戦略的なオープニングです。黒は白の計画に対して、d5ポーンの処理や駒の配置を巡って多様な防御手段を検討することになり、様々な局面へと分岐していきます。

もう一度検索