カターニアのサッカー暴動
2007年2月2日、イタリア・シチリア島東部の都市カターニアにあるスタディオ・アンジェロ・マッシミーノで、地元のカルチョ・カターニアとUSチッタ・ディ・パレルモが対戦するセリエAの「シチリアダービー」が開催されました。
この試合中、カターニアの熱狂的なサポーター（ウルトラス）と警官隊の間で激しい衝突が発生しました。この混乱のさなか、警備にあたっていたフィリッポ・ラチーティ巡査（40歳）が命を落とし、別の警官1名も重傷を負いました。さらに、100名以上の観客が負傷し、14名のカターニアサポーターが逮捕されるという痛ましい結果となりました。
シチリア島を代表する2つのクラブによるこのダービーは、当初2月4日に予定されていましたが、カターニア市で同時期に開催される聖アガタの祝祭との混雑を避けるため、前倒しで2月2日の金曜日午後6時キックオフに変更されました。試合開始時、パレルモのサポーターを乗せたバスの到着が遅れたため、アウェー席は空席でした。パレルモサポーターが後半10分過ぎにようやく入場すると、まもなくパレルモが疑惑のオフサイド判定とも取れるゴールで先制します。これに憤慨したカターニアサポーターが、アウェー席に向けて発煙筒や爆竹を投げ込み始めました。
事態を収拾しようとした警官隊は、カターニアのウルトラスに対して催涙弾を発射。催涙ガスがスタジアム内に充満し、プレー中の選手にも影響が出たため、主審は40分以上にわたって試合を中断せざるを得ませんでした。試合は再開され、カターニアが同点に追いついたものの、パレルモが決勝点を挙げ、2対1でアウェーのパレルモが勝利を収めました。この決勝点もハンドの反則が疑われるものであり、最初の先制点も疑問が残る判定であったため、試合結果に不満を募らせたカターニアサポーターは、試合終了後に警官隊への攻撃を開始したのです。
犠牲となったラチーティ巡査は、スタジアム外でパトカーに乗って待機していました。しかし、スタジアム最上部から投げ落とされた紙爆弾がパトカーに直撃した衝撃で車外に出たところ、カターニアサポーターからの投石に遭います。さらに、再び投げ込まれた紙爆弾が爆発し、その場に倒れ込みました。搬送先の病院で死亡が確認されました。当初、死因は紙爆弾の直撃と思われていましたが、その後の詳細な分析により、倒れこんだ巡査に対して振り下ろされた陶器片による内臓破裂が直接の死因であったことが判明しました。これは、1962年以降にイタリア国内のサッカースタジアム内外で発生した事件における13人目の犠牲者でした。彼の死を悼み、カターニア市で開催されていた聖アガタの祝祭は規模を縮小して行われました。
事件後、カターニアのアントニーノ・プルヴィレンティ会長はパレルモサポーターに非があるとの見解を示しましたが、パレルモのフランチェスコ・グイドリン監督はカターニア側に責任があるとし、カターニアの地方判事はパレルモサポーターにこの事件の責任はないとの判断を示しました。
このダービーでの悲劇に加え、その直前にもアマチュアリーグの試合でクラブディレクターが相手サポーターに襲われ死亡していたことが明らかになりました。これらの事態を受け、イタリアのスポーツ大臣、オリンピック委員会会長、サッカー連盟会長は緊急会議を開き、2月3日、4日に予定されていたセリエA、アマチュアリーグ、さらにはイタリア代表の試合を含む全てのサッカー関連イベントの延期を決定。これにより、イタリア代表対ルーマニア代表の国際親善試合も中止となりました。1週間後の2月10日にセリエAは再開されましたが、全10試合のうち4試合は無観客で行われました。
イタリアサッカー界はこの暴動を強く非難し、試合中止の決定を支持しました。同様のフーリガン問題に悩まされてきたイギリスの経験などを参考に、抜本的な安全対策を模索する動きが見られました。カターニアのプルヴィレンティ会長は一時、サッカー界からの引退を示唆しましたが、後に撤回しました。暴動の翌日以降、カターニアだけでなく、リヴォルノ、ピアチェンツァ、ローマ、ミラノ、パレルモなどイタリア各地で、2001年にG8サミット反対デモ中に死亡した反グローバリゼーション活動家、カルロ・ジュリアーニへの「復讐」を示唆し、暴動を支持する落書きが出現するなど、社会的な波紋を広げました。
事件当時、前年に施行されたテロ・組織暴力対策法に基づき、スタジアムへの回転式ゲート設置や記名式チケット導入が進められていましたが、その遵守状況は不十分であることが露呈しました。イタリア政府は、安全基準を満たさないスタジアムでの観客入場を禁止する措置を取りました。当初、観客入場が許可されたのはごく一部のスタジアムに限られましたが、その後、基準を満たすスタジアムは増加しました。また、打ち上げ花火や発煙筒、爆竹などのスタジアムへの持ち込み・使用が禁止され、2007年2月のナイトゲームは全て中止されました。アウェーサポーターへのチケットのブロック販売が禁止され、警官がフーリガンと見なされる人物の入場を事前に拒否できるようになりました。各クラブも、ファンクラブとの財政的・実務的な関係を断つよう指導されました。
カルチョ・カターニアは、イタリア規律委員会から5万ユーロの罰金と、シーズン残りのホームゲームをカターニア外の中立地で無観客で行うという厳しい処分を受けました。しかし、この決定はカターニアの地方行政裁判所によって一部覆され、観客入場を認めるべきであるとの判決が出されます。数日後にはローマの地方行政裁判所がこれを再び覆しましたが、4月中旬には再度カターニアの地裁が覆すという、異例の判決の応酬が続きました。これにより、カターニア対アスコリ戦の開催が遅れ、会場も二転三転しました。ACミラン戦やACキエーヴォ・ヴェローナ戦では、本来無観客の予定だったにも関わらず、カターニアサポーターの入場が認められ、ボローニャのスタディオ・レナート・ダッラーラをカターニアの本拠地として開催されるなど、混乱が続きました。
2007年9月2日、スタディオ・アンジェロ・マッシミーノに新しい安全基準が導入され、ラチーティ巡査の死後初めて観客を迎えて2007-08シーズンの開幕戦（対ジェノアCFC）が開催されました。この試合には巡査の妻も出席し、試合開始前には追悼の黙祷が捧げられました。
事件から1年後の2008年には、警官殺害の容疑で当時18歳だった少年が逮捕・収監されましたが、証拠不十分により後に釈放されています。暴動後、ダービーマッチでアウェーサポーターの入場が再び認められたのは、2010-11シーズンまで待つことになります。2010年11月14日にパレルモで行われたダービーでは、300人ほどのカターニアサポーターが入場し、試合前には両クラブの会長が並んでサポーターに挨拶する場面も見られました。
この試合中、カターニアの熱狂的なサポーター（ウルトラス）と警官隊の間で激しい衝突が発生しました。この混乱のさなか、警備にあたっていたフィリッポ・ラチーティ巡査（40歳）が命を落とし、別の警官1名も重傷を負いました。さらに、100名以上の観客が負傷し、14名のカターニアサポーターが逮捕されるという痛ましい結果となりました。
事件の詳細
シチリア島を代表する2つのクラブによるこのダービーは、当初2月4日に予定されていましたが、カターニア市で同時期に開催される聖アガタの祝祭との混雑を避けるため、前倒しで2月2日の金曜日午後6時キックオフに変更されました。試合開始時、パレルモのサポーターを乗せたバスの到着が遅れたため、アウェー席は空席でした。パレルモサポーターが後半10分過ぎにようやく入場すると、まもなくパレルモが疑惑のオフサイド判定とも取れるゴールで先制します。これに憤慨したカターニアサポーターが、アウェー席に向けて発煙筒や爆竹を投げ込み始めました。
事態を収拾しようとした警官隊は、カターニアのウルトラスに対して催涙弾を発射。催涙ガスがスタジアム内に充満し、プレー中の選手にも影響が出たため、主審は40分以上にわたって試合を中断せざるを得ませんでした。試合は再開され、カターニアが同点に追いついたものの、パレルモが決勝点を挙げ、2対1でアウェーのパレルモが勝利を収めました。この決勝点もハンドの反則が疑われるものであり、最初の先制点も疑問が残る判定であったため、試合結果に不満を募らせたカターニアサポーターは、試合終了後に警官隊への攻撃を開始したのです。
ラチーティ巡査の死
犠牲となったラチーティ巡査は、スタジアム外でパトカーに乗って待機していました。しかし、スタジアム最上部から投げ落とされた紙爆弾がパトカーに直撃した衝撃で車外に出たところ、カターニアサポーターからの投石に遭います。さらに、再び投げ込まれた紙爆弾が爆発し、その場に倒れ込みました。搬送先の病院で死亡が確認されました。当初、死因は紙爆弾の直撃と思われていましたが、その後の詳細な分析により、倒れこんだ巡査に対して振り下ろされた陶器片による内臓破裂が直接の死因であったことが判明しました。これは、1962年以降にイタリア国内のサッカースタジアム内外で発生した事件における13人目の犠牲者でした。彼の死を悼み、カターニア市で開催されていた聖アガタの祝祭は規模を縮小して行われました。
事件後、カターニアのアントニーノ・プルヴィレンティ会長はパレルモサポーターに非があるとの見解を示しましたが、パレルモのフランチェスコ・グイドリン監督はカターニア側に責任があるとし、カターニアの地方判事はパレルモサポーターにこの事件の責任はないとの判断を示しました。
事件の余波
このダービーでの悲劇に加え、その直前にもアマチュアリーグの試合でクラブディレクターが相手サポーターに襲われ死亡していたことが明らかになりました。これらの事態を受け、イタリアのスポーツ大臣、オリンピック委員会会長、サッカー連盟会長は緊急会議を開き、2月3日、4日に予定されていたセリエA、アマチュアリーグ、さらにはイタリア代表の試合を含む全てのサッカー関連イベントの延期を決定。これにより、イタリア代表対ルーマニア代表の国際親善試合も中止となりました。1週間後の2月10日にセリエAは再開されましたが、全10試合のうち4試合は無観客で行われました。
イタリアサッカー界はこの暴動を強く非難し、試合中止の決定を支持しました。同様のフーリガン問題に悩まされてきたイギリスの経験などを参考に、抜本的な安全対策を模索する動きが見られました。カターニアのプルヴィレンティ会長は一時、サッカー界からの引退を示唆しましたが、後に撤回しました。暴動の翌日以降、カターニアだけでなく、リヴォルノ、ピアチェンツァ、ローマ、ミラノ、パレルモなどイタリア各地で、2001年にG8サミット反対デモ中に死亡した反グローバリゼーション活動家、カルロ・ジュリアーニへの「復讐」を示唆し、暴動を支持する落書きが出現するなど、社会的な波紋を広げました。
その後の経過
事件当時、前年に施行されたテロ・組織暴力対策法に基づき、スタジアムへの回転式ゲート設置や記名式チケット導入が進められていましたが、その遵守状況は不十分であることが露呈しました。イタリア政府は、安全基準を満たさないスタジアムでの観客入場を禁止する措置を取りました。当初、観客入場が許可されたのはごく一部のスタジアムに限られましたが、その後、基準を満たすスタジアムは増加しました。また、打ち上げ花火や発煙筒、爆竹などのスタジアムへの持ち込み・使用が禁止され、2007年2月のナイトゲームは全て中止されました。アウェーサポーターへのチケットのブロック販売が禁止され、警官がフーリガンと見なされる人物の入場を事前に拒否できるようになりました。各クラブも、ファンクラブとの財政的・実務的な関係を断つよう指導されました。
カルチョ・カターニアは、イタリア規律委員会から5万ユーロの罰金と、シーズン残りのホームゲームをカターニア外の中立地で無観客で行うという厳しい処分を受けました。しかし、この決定はカターニアの地方行政裁判所によって一部覆され、観客入場を認めるべきであるとの判決が出されます。数日後にはローマの地方行政裁判所がこれを再び覆しましたが、4月中旬には再度カターニアの地裁が覆すという、異例の判決の応酬が続きました。これにより、カターニア対アスコリ戦の開催が遅れ、会場も二転三転しました。ACミラン戦やACキエーヴォ・ヴェローナ戦では、本来無観客の予定だったにも関わらず、カターニアサポーターの入場が認められ、ボローニャのスタディオ・レナート・ダッラーラをカターニアの本拠地として開催されるなど、混乱が続きました。
2007年9月2日、スタディオ・アンジェロ・マッシミーノに新しい安全基準が導入され、ラチーティ巡査の死後初めて観客を迎えて2007-08シーズンの開幕戦（対ジェノアCFC）が開催されました。この試合には巡査の妻も出席し、試合開始前には追悼の黙祷が捧げられました。
事件から1年後の2008年には、警官殺害の容疑で当時18歳だった少年が逮捕・収監されましたが、証拠不十分により後に釈放されています。暴動後、ダービーマッチでアウェーサポーターの入場が再び認められたのは、2010-11シーズンまで待つことになります。2010年11月14日にパレルモで行われたダービーでは、300人ほどのカターニアサポーターが入場し、試合前には両クラブの会長が並んでサポーターに挨拶する場面も見られました。
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