カットアップ

カットアップ：偶然と創造性が織りなす文学技法

カットアップとは、既存のテキストをランダムに切り刻み、それらを再構成することで新たなテキストを生み出す文学技法です。この手法は、直線的な物語の語り口を解体し、偶然性や予期せぬ組み合わせから生まれる表現を探求することを目的としています。

カットアップの技法

カットアップは、テキストを単語やフレーズ単位に分解し、それらを再配置することで行われます。紙に印刷されたテキストを切り刻み、並べ替えるという物理的な手法が一般的です。また、フォールドインという類似の技法では、複数のテキストをそれぞれ分割し、それらを組み合わせることで新たなテキストが生成されます。

カットアップの手順例

1. テキストの準備: 任意のテキストを用意します。新聞記事、小説の一節、詩など、どのようなものでも構いません。
2. テキストの分割: 用意したテキストを単語、フレーズ、文節などに切り分けます。紙媒体の場合は、ハサミやカッターで物理的に切り刻みます。
3. ランダムな再構成: 切り分けたテキストの断片をランダムに並べ替え、新しい順序で配置します。
4. 新しいテキストの生成: 並べ替えた断片を繋ぎ合わせ、新たなテキストを作成します。必要に応じて、文章の調整や加筆を行います。

カットアップの歴史

ダダイズムと初期の試み

カットアップの原型は、1920年代のダダイズム運動に遡ります。トリスタン・ツァラは、新聞記事から切り取った単語をランダムに取り出し、詩を創作しました。この偶然性を重視する手法は、後のカットアップ技法の基礎となりました。

ブライオン・ガイシンによる発展

1950年代、画家であり作家のブライオン・ガイシンが、偶然の発見からカットアップ技法を完成させました。新聞記事を重ねて切った際に、下の記事が興味深い配置になっていることに気づき、この手法を意図的に応用しました。

ウィリアム・S・バロウズによる普及

ガイシンは、ビート・ホテルでウィリアム・S・バロウズにこの技法を紹介しました。バロウズはカットアップを、印刷メディアやオーディオ録音に応用し、テキストに潜在する意味を解読する試みを行いました。また、バロウズはフォールドイン技法も発展させ、カットアップが占いの語り口にも効果的であると示唆しました。

その他の文学作品への影響

アルゼンチンの作家フリオ・コルタサルも、自身の小説でカットアップ技法を使用しました。

映画におけるカットアップ

アントニー・バルチとバロウズは、コラボレーション映画「カットアップ」を製作しました。この映画は、ドキュメンタリーの映像を細かく切り刻み、ランダムに再編集したもので、観客にめまいや不快感を引き起こすなど、反響を呼びました。その他にも、カットアップ技法を用いた実験的な映像作品が制作されています。

音楽におけるカットアップ

音楽分野では、1970年代以降、デヴィッド・ボウイをはじめとする多くのアーティストが、歌詞の創作にカットアップの手法を取り入れています。また、ヒップホップや電子音楽のサンプリングも、カットアップと類似した手法であると言えます。その他、ダブミュージック、マッシュアップなどのジャンルにも影響が見られます。

著名なアーティストとカットアップ技法

デヴィッド・ボウイ: 歌詞制作にカットアップ技法を応用。
カート・コバーン: 作詩に影響を受けた。
レディオヘッド（トム・ヨーク）: アルバム制作にカットアップに似た技法を使用。
ジェネシス・P・オリッジ: カットアップを「現実を変える方法」として実践。
ART-SCHOOL（木下理樹）: 歌詞制作にカットアップ技法を多用。
オマー・ロドリゲス・ロペス: 演奏したフレーズをカットアップで繋ぎ合わせて楽曲を制作。

その他の分野への応用

カットアップは、電子メールのスパム対策にも応用されています。ベイジアンフィルタを回避するために、ランダムに生成されたテキストが使用されることがあります。また、こうして生成された文法的に筋の通ったテキストは、「スパム詩」や「スパム・アート」として認識されることもあります。

まとめ

カットアップは、テキストの解体と再構築を通して、新たな意味や表現を生み出す創造的な手法です。文学、映画、音楽など、様々な分野で応用されており、実験的な表現を追求するアーティストたちに影響を与え続けています。偶然性と創造性が交錯する、魅力的な文学技法と言えるでしょう。

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