カルドゥン・ラ

カルドゥン・ラ：ラダックの峻峰を越える歴史と絶景の峠

カルドゥン・ラ（Khardung La）は、インドのラダック連邦直轄地に位置する、標高5359mの峠です。「ラ」はチベット語で「峠」を意味し、地元では「Khardong La」とも表記されます。

この峠は、レーの北にそびえるラダック山脈を越え、シャヨク川流域やヌブラ谷への入り口となっています。峠の先には、壮大なシアチェン氷河が広がります。1976年に開通し、1988年には自動車での通行が可能になりました。以来、自動車やオートバイ、マウンテンバイクなどで訪れる旅行者が後を絶ちません。

戦略的要衝としての役割

カルドゥン・ラは、インド軍によって整備されており、シアチェン地方への物資輸送を担う重要な戦略拠点です。かつては、レーと中国西部のカシュガルを結ぶ主要な交易路として栄え、一年に一万頭もの馬やラクダが往来していました。現在でも、峠の北部にわずかに生息するフタコブラクダが、往時の賑わいを偲ばせます。第二次世界大戦中には、このルートを通じて中国への物資供給が行われていた歴史もあります。

峠への道と高度

レーからカルドゥン・ラまでは、道路に沿って約37kmの道のりです。最初の24kmは舗装路ですが、サウス・プリュのチェックポイントを過ぎると、約15kmの浮石の多い未舗装路が続きます。雪解け水が流れる小川を渡る箇所もありますが、周辺の他の峠に比べると整備状態は良好です。ノース・プリュからヌブラ谷までの道路は、落石などの場所を除けば、比較的よく整備されています。ヌブラ谷への移動には、タクシーやトラック、オートバイなどが利用され、特別な許可証が必要になる場合もあります。

正確な標高は、最新のGPS計測により5359mとされています。この値は、NASAのスペースシャトルによるレーダー調査やロシアの地形図とも一致しています。しかし、峠には5602mという標高が表記されていることもあり、これは記録を誇張するために水増しされた値であるという地元の人々の主張もあります。ギネスブックやナショナルジオグラフィックでは、さらに高い5682mとされていますが、これは5602mという誤った標高を基にした可能性が高いと考えられています。

世界一標高の高い峠ではない

カルドゥン・ラは、自動車が通行可能な世界一標高の高い峠として広く知られていますが、これは誤解です。実際には、チベットにはカルドゥン・ラよりも標高の高い峠がいくつか存在します。例えば、ラサの西にあるスゲ・ラ（5430m）や、中央チベットにあるセモ・ラ（5565m）などが挙げられます。これらの標高はGPSやSRTMによる計測で確認されており、セモ・ラはスペインの調査隊によっても測定されています。また、カルドゥン・ラの北東にあるマーシミク・ラ（5582m）も車両が通行した記録がありますが、乗用車が通行可能かどうかについては議論があります。

カルドゥン・ラへのアクセス

カルドゥン・ラへの最寄りの都市は、ラダックの中心都市であるレーです。レーは、マナリやシュリーナガルと道路でつながっており、デリーからは毎日定期便が運航しています。レーからカルドゥン・ラを越えてヌブラ谷へ行くバスも毎日運行しています。カルドゥン・ラへは、タクシーやバイクでの移動がおすすめです。峠の南北には、ノース・プリュとサウス・プリュの2つのチェックポイントがあり、車両の通行は時間制の一方通行となっています。レーからカルドゥン・ラへは午前9時～午後1時、ヌブラからカルドゥン・ラ、レーへは午後1時～午後5時となります。時間帯によっては、一日一方向の通行になることもあります。

カルドゥン・ラへ行くには、インナーライン・パーミット（ILP）と呼ばれる許可証が必要です。この許可証は、レーの旅行会社で取得することができます。チェックポイントで許可証の提示が必要となるため、コピーを複数用意しておくと便利です。

カルドゥン・ラは、その歴史的な背景と壮大な景観から、世界中の旅行者を魅了する峠です。訪れる際には、事前の準備と情報収集をしっかりと行い、安全な旅を心がけましょう。

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